愛と執着の非独立記念日⑬
俺の言葉を聞いた彬は幾度か瞬きをしてこちらを見上げる。その瞳が不意にきらりと光を湛え、そして一拍を置いて眦からはらはらと涙が零れだした。次から次へと頬を伝う涙は彬のすんなりとした顎からぱたぱたとしたたり落ちていく。
彬はその涙を拭うこともなく俺を見つめていた。俺は苦笑いをしながら親指の腹で頬の涙の跡を拭ってやる。すると彬ははくはくと唇を僅かに開閉して俺の名前を呼び、身を投げるように腕の中に飛び込んできた。
「鞍馬……!」
「わっ!?」
また抱き留めようとしたもののその勢いを上手く受け止められず、俺は押し倒されるように廊下に尻餅を付く。驚きと痛みにちかちかする視界の中で、腕の中の彬は俺の胸に追い縋って静かに泣いているようだった。
俺はふぅと息を吐き、我慢しなくていいんだと伝えるように彬の背に手を回して優しく撫でてやる。
その気持ちが通じたのだろうか。すぐに彼は産声を上げる赤ん坊みたいに必死に息をしながら嗚咽しはじめた。そしてその嗚咽の合間に、涙に濡れた震える声を押し出す。
「ご、ごめ……。でも俺……、うれっ……うれしくて……!」
万感の思いを込めたような彬の言葉。その響きを耳にしただけで、俺まで泣きそうになって目を閉じ顎を上げて薄暗い天井を見つめる。そうやって涙を堪えながら、俺は彬が落ち着くまで彼の背中を撫で続けた。
「彬」
しばらくの間さめざめと泣いていた彬がようやく落ち着きを取り戻したのを見計らって、俺は彼の名を呼ぶ。彬は俺の胸に縋ったまま、小さく顔を上げてこちらを見た。
俺が廊下の端に投げ出されていたもう一つの指輪が納められている箱を引き寄せて彬に差し出すと、それだけで思惑は伝わったらしい。彬は俺から箱を受け取ると、その中に残されたもう一つの指輪を取り出した。
そして祈るように一度瞬きをしてから、俺の左手の薬指にそっと填めてくれる。
俺たちの左手の薬指に絡みつき光るお揃いの白銀の鎖。
「……っ!」
それを見た瞬間、大きく息を乱したのは俺の方だった。まるで風船に大きく息を吹き入れた時のように感情が膨らんで、爆発するように発露した。
俺は自分の胸に縋り付く彬の身体をぎゅうと強く抱くと、その額に、鼻の頭に、頬に、喉に、鎖骨に、次々と口づける。急な俺の行動に驚いたのだろうか、彬は小さく身じろぎをして抵抗しようとした。だが、俺はそれを無理矢理抑え付けるように抱きしめ続ける。そして最後に、ちゅっちゅっと軽い音を立てて彬の唇に幾度も口づけを落とした。
そうしていると、次第に彬の表情もうっとりと蕩けてくる。気を良くした俺はゆっくりと彬の身体を廊下に押し倒した。
「彬、いいよな?」
「く、鞍馬……?」
その耳元で囁くような問いかけに、彬は浅く短い息を吐きながら不安と期待がない交ぜになった揺れる声で俺の名を呼ぶ。その彬の様子のあまりの可愛らしさに俺はクッと喉で笑うと、そのまま彬の上に覆い被さろうとした。
しかし、その時だった。




