愛と執着の非独立記念日⑫
(まったく、彬らしいというかなんというか……)
俺は小さく嘆息する。この自分に自信がなく怖がりでどうしようもない男には何度でもガツンと示してやらないとならないらしい。
「彬」
俺は空気を割るようにはっきりと彬の名前を呼んだ。それからすっと目を伏せて下から攫うように俯く彬の唇を奪う。
「んっ……く、らま?」
「……舌、出して?」
戸惑う彬の言葉を噛み砕くように、俺は大きく口を開けて彼の唇を食んだ。そしてその震える唇の奥からおずおずと差し出された舌に自分の舌を絡める。びくりと彬の身体がわななき、ふぅと熱い息が漏れた。
続けて、わざとちゅくちゅくと唾液の水音を立てて舌で口の中を探ってやると、涙で潤み始めた彬の瞳が気持ちよさそうにとろんととろけていく。
そのタイミングを見計らって、俺は不意に口づけを止めてしまった。
「え……、ぁ……」
縋る物を失った彬の唇からそんな声の欠片が零れる。何が起こったのか解らないというようにきょろきょろと辺りを見回して、次の瞬間、彬は浅く早い息を吐きながらその場にへなへなとへたり込んだ。
「……彬はさ、俺なしでも生きていけるのか?」
その彬を見下ろしながら俺が問うと、彼は潤んだ目を見張って首を横に振る。俺のいない人生を想像したのだろうか、その目には確かな恐怖が滲んでいた。
そんな彬の様子に俺は心の底から深いカタルシスのような感情がじわりと湧き上がってくるのを感じていた。身体中に満ち満ちて収まりきらないその巨大な感情を体外に逃がすために、俺は幾度か不自然な瞬きをしてみせる。
「じゃあ、受け取ってくれるよな?」
最後の問いはただの確認だった。俺が追い詰めるみたいに屈み込みながらうずくまる彬の左手を取ると、彼は小さく「あ」と声を漏らして目を見開いた。だが俺はその反応を完全に無視して、彬の指に指輪を填める。自分の左手の薬指できらりと光る白銀の鎖を、彬は放心したように見つめていた。
「俺たちは、いわば利害の一致で一緒にいるだけの似たもの同士。俺は彬に、彬は俺に依存することでやっと立っていられる、そんな関係だ」
それはいつかの俺が彬に語った言葉。その時の俺は不安定で、酷く破滅的な思考に囚われていた。消えてしまいたい、死んでしまいたいと本気で思うほどに。
だけど今の俺はそんなことはちっとも考えていない。俺は彬がその言葉に不安を覚える前に手にした彼の左手を顔の前までぐいと引き寄せる。そして目の前で輝く指輪と彬の薬指の爪先に軽く音を立てて唇を落とすと、笑って言って見せた。
「でもきっと『依存しあうこと』、それこそが俺たちの愛で、絆なんだ。もしかして、他人から見たらこの指輪は身を縛る枷にしか見えないのかも知れないけれど、寂しがりの俺たちにはそんな関係も悪くないんじゃないかな」




