愛と執着の非独立記念日⑪
だが彬はその俺の言葉に小さく首を横に振る。
「解ってるつもりだったんだ。今日がどういう日なのかも、お前がどうして遅くなったのかも、全部。そのつもりで自分も行動していたはずなのに。それなのに俺は隣にお前がいないと不安で不安で仕方が無くて、駄目になりそうで……」
彬はそう言って、更に強く俺の肩に顔を埋めた。彼の手が絡みつく蔦のように俺の背に回される。
「面倒くさい束縛男でごめんな」
最後にぽつりと呟かれた彬の言葉は自嘲と自責に塗れていた。そのどろどろの声音に、俺は胸にきゅんと締め付けられるような甘い痛みを感じる。その甘い痛みに任せて、彬の背に回していた手に力を入れ視線を上げた。
「……あーきら?」
おどけたような抑揚をつけて名を呼ぶと、彬は渋々小さく顔を上げた。強く押しつけすぎたのか、額がほんのり赤くなっている。その様子に、俺は思わず笑ってしまった。くすくすと笑い続ける俺を見て、彬はきょとんとしている。
「そうだな、お前は面倒くさい。貪欲だし、束縛も強い」
「……ぅ」
俺が容赦なく肯定すると、彬は小さく唸って身を竦めてしまった。そんな彬も可愛いが、俺の目的は彬を虐めることではない。俺は彬の赤くなった額を優しく撫でながら、言い聞かせるように言葉の続きを紡いだ。
「でも俺はさ、最初から彬のそういう面倒くさいところが可愛いと思ってるよ。俺を必要としてくれる、俺に居場所をくれる。最高の、俺の恋人だ」
極めつけに赤くなった額に軽い口づけをしてやると、彬は額以外も目に見えて真っ赤にしてまた俯く。
その彬を前に、俺はたまらなくなって手にしていたショッパーバッグの中から今日のために手に入れてきたものを取り出した。それは手のひらに乗るくらいの小さな箱だ。早く早くと焦りながら、それでも慎重に蓋を開けると、その中には白銀に光る一対の指輪が納められていた。鎖をモチーフにした滑らかな曲線とその鎖に絡め取られるように配された小さなダイヤモンドがとても美しい指輪だ。
「!!」
それを見た彬が目を大きく見張りこくりと息を呑んだのが解った。俺はその反応ににんまりと笑って箱の中の指輪の片割れを手に取ると、彬の目の前にかざす。
「な、今日がどういう日なのか、俺がどうしてこんなに遅くなったのか、解ってるって言ったよな? じゃあこの指輪も想定の範囲内?」
彬の既に真っ赤に熟れた耳。そこに息を吹きかけるようにして俺が問いかけると、彬はびくりと身悶えをしてから潤んだ瞳と震える声で健気に答えた。
「今日は俺たちが恋人になって一年の記念日で、何か記念の品を用意してくれてるのは気付いてたんだ……。でも俺、こんなの想像してなくて……」
そこまで言って口ごもってしまった彬に、俺は小さく首を傾げる。そして自分が意地悪をしていることを理解しながらもう一度問いかけた。
「……迷惑だった?」
「……っ!? まさか、そんなわけない!」
思った通り、彬は焦ったように顔を上げ必死に首を横に振って否定してくれた。だがすぐに気まずそうに身を竦めて下を向いてしまう。
そしてぽつりとこう呟いたのだ。
「ただ俺は……、自分にそんなものを受け取る資格があるのかどうかが不安なだけなんだ……」




