愛と執着の非独立記念日⑩
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勝手知ったる我が家の玄関を前に、俺は小さく足踏みをした。冷たい夜気が火照った頬を撫でる。どきどきと逸る胸を押さえて、落ち着け、落ち着け、と自分自身に暗示をかけた。
夕方、業務を終えた俺は役場を出ると脇目も振らず車に乗り込んで、この辺りでは一番栄えた都市であるC市へと向かった。目的地はC市の市街地にある洒落た商店の並ぶ一画。クリスマスシーズンでもないのにきらきらした色とりどりのイルミネーションが瞬く商店街を足早に歩いて閉店間際の目的の店に飛び込むと、取り寄せしていた『あるもの』を受け取って折り返すように真っ直ぐ家まで帰ってきた。
だいぶ夜は更けてしまったが、まだ家の居間に明かりが灯っているのが見えた。彬が待っていてくれているのだと解って、少しほっとする。俺は自分が手にしている小さくて軽い、だけど大きな存在感を持ったショッパーバッグに視線を落として口元をぎゅっと引き締めると、鍵を開けておもむろに家の中へと入った。
「おかえり」
「!?」
いつものように靴を脱ごうと屈んだ瞬間、家の奥へ続く薄暗い廊下の向こうから声がかけられる。驚いて顔を上げると、常日頃から付けっぱなしにしている常夜灯の僅かな光を受けながら彬が廊下に立っているのが見えた。
「……ただいま」
驚きに上擦りそうになる声をなんとか宥めて返事をした俺は、平常心を装って改めて靴を脱ぎ彬の前に立つ。そして無意識に彼の指先に手を触れた。
(……冷たい)
その指先は冷たく冷え切っていた。彬はこの寒い廊下でずっと俺の帰りを待っていたのだろうか。思わず温めるように冷たい指を一本ずつ握り込む。彬はその俺の行動をとても穏やかな表情で見つめていた。
「ほら、寒いから早く居間に行こう」
ほんのりと暖まった彬の手を引いて促す。しかし彼はその場で微動だにせずに俺をじっと見つめていた。その表情は相変わらず穏やかだったが、どこか問いかけるような、悲しげな色が窺えた。
「彬?」
「………………」
声をかけても返事はなかった。そのかわりに彬はふらりとした足取りでこちらに近付き、半ば倒れ込むようにして俺の肩に顔を埋める。俺は慌ててその背に手を回して彼の身体をしっかりと抱き留めた。
一瞬、泣いているのだろうかと思う。だけど背に回した手に伝わる感覚から察するにそういうわけでもないようで。それでも彬が先ほど見せた悲しげな様子が忘れられない俺は、宥めるように慰めるようにゆっくりとその背を撫でた。俺には彼のその様子に思い当たることがあったのだ。
「……ごめん、遅くなりすぎたな」
思えば彬をこんな時間まで一人にさせてしまったのは、一年前双子がやってきたあの夜以来かも知れない。唯一の前例があれでは心配するなと言う方が無理な話だろう。




