愛と執着の非独立記念日⑧
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「後で泣いても知らないわよ?」
「ったく、善意の忠告を無視たぁ、いい度胸じゃんか」
すげない俺の態度にぶつぶつとそんな悪態をつきながらも、双子はそれ以上居座ることなく役場から大人しく出て行った。その時を見計らったかのように役場の前に黒い高級車が乗り付けられ、二人は当然のようにその後部座席に乗り込む。
その黒い高級車は相変わらず滑るようになめらかに発進して俺の視界から消えた。それを見届けて大きく嘆息する。
(『トラ』も大変だな。あいつの思惑も外れたみたいだし、今度オレンジゲイブルズに差し入れでもしてやるか)
そんなことを考えながら自分のデスクへ戻ろうとした俺は、しかし次の瞬間無意識に指先を唇に触れさせていた。
(それにしても……)
それはほんの小さな気がかりだった。だがその気がかりはどうやら俺の表情を曇らせるのに十分だったらしい。
「なんだ、浮かないツラだなァ、草壁」
「……っ、おやっさん!?」
背後から急に声をかけられて、俺は飛び上がりそうなくらいびっくりして振り返った。そこにいたのは神津のおやっさんだ。
「で、一体どうしてそんなツラしてンだよ? 彬と喧嘩でもしたのか?」
おやっさんは首を傾げると手にしていた丸めた書類の束でぽんぽんと軽く自分の肩を叩く。どうやら興味津々のようだ。
「別に。これ以上無いくらい円満だよ」
「はん、惚気っていうには覇気がネェなァ?」
俺はぐっと息を呑んで恨めしげにおやっさんを見る。おやっさんはくつくつと低く笑ってその俺の肩をばんと叩いた。痛い。
「話せ話せ。溜め込んでもイイことなんてネェぞ?」
「えぇ?」
俺はおやっさんの言葉に少しばかり迷って視線を逸らす。業務中に話すにはあまりに内容が個人的すぎる気がした。だが、おやっさんは俺が話すまで満足しそうにない。珍しいこともあったものだ。
結局、俺は渋々居住まいを正すと、おやっさんに話を聞いてもらうことにした。
「……さっき、例の双子がここに来たんだ」
「ああ、あの威勢のいい嬢ちゃんと坊主か。あの二人がお前に何か吹き込んだのか?」
「その……、彬が今日、スーパーの常連のおっさんと車で村の外へ行くって……」
唸るような低い声でそう言ってしまってから、俺は眉を顰めて口を噤む。先ほど感じた小さな気がかりが、また胸に舞い戻ってきたのだ。
「……やれやれ、世話が焼けるな。お前が信じてンのは彬と双子、どっちなんだ?」
その様子を見たおやっさんに呆れたように問われて、俺は俯いて考えた。彬と双子と、どちらを信じるのか。普通に考えれば即答しなければならないのだろう。だけど俺にはどうしてもそれができなかった。
しばらくの逡巡の後、俺は視線を上げる。そして、おやっさんを真っ直ぐに見て言い放った。




