愛と執着の非独立記念日⑦
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「ちょっと、聞いてるの!?」
ひよりのがなり声で俺ははっと現実に立ち戻る。
幾度か瞬きをして辺りを見回せば、自分が役場の受付に立っていることを思い出した。そしてその目の前では、地雷系ファッションに身を包んだひよりとひなたが訝しげな表情で俺の顔を覗き込んでいる。
あの日、俺たちの前から一旦は姿を消した双子。それが何故今、当たり前のように俺の目の前にいるのかといえば、幾らかのわけがあった。
あれは二人が消えた春の日から約一月後、このA村にも遅い初夏の気配が感じられ始めた頃のことだ。二人は前触れもなく、まだ時期尚早と言えるド派手なアロハシャツにサングラス、ビーチサンダルというゴキゲンな出で立ちで役場にやってきた。その時も彼らは俺を指名して呼び出すと、これ見よがしに書類を突きつけてにこやかにこう言い放ったのだ。
「私たちね、やっぱり彬が諦められないのよ。最初は忘れようと思いもしたけれど、それがどうしてもできなくて。だから私たち、思い切ってこの村に越してきたの」
「一族のジジババ連中やトラには猛反対されたけど、全部説得してきたんだぜ? これで彬がおまえに飽きたらすぐにでもオレたちのものにできるな」
二人の言葉に目の前が真っ暗になるような気分を味わいながら俺は思った。もしかして、これもあの日の彬がこの二人にした対応の影響なのだろうか。
その晩、双子がこの村に越してきたことを彬に報告すると、彼は何も言わずに少し困ったような、でもどこか嬉しそうなはにかみを見せた。それだけだった。
それからというものの、彼らは折に触れては俺たちの前に姿を現すようになった。彼らは相変わらず彬を狙っているのだろう。だが俺のこともいわゆる「おもしれー男」くらいには思っているらしい。その証拠に、二人は俺が単独でいる時にも面白半分にちょっかいをかけにやって来る。
だから、彼らがこうやってふらりと役場にやってきては俺の仕事を邪魔していくのもいつものことなのだ。周囲からも恒例行事のように扱われているのを思い出すだに頭が痛い。
俺はこめかみに手を添えてから仕方なく目の前の双子を一瞥すると、投げやりな気持ちで声を潜めてもう一度訊ねた。
「で、何の用だ?」
すると、彼らは一度顔を見合わせてから俺以上に潜めた声でぼそぼそと囁く。
「彬ね、今日は早上がりなんですって。知ってた?」
「は? いや、聞いてないけど……?」
「で、スーパーの常連のオッサンに車を出して貰って村の外に行くらしいぞ」
思わず、俺はすいと剣呑に目を眇める。二人はその俺を煽るようににこりと笑った。
「ね、気にならない?」
「彬も、そろそろおまえに飽きてきたんじゃね?」
「………………」
だけど俺はひとまず二人の言葉をまともに受け止めないことにする。先ほどと同じようによそ行きの笑顔を顔面に貼り付けて有無を言わせない圧をかけながら役場の出口を指した。
「お帰りはあちらです」




