愛と執着の非独立記念日⑥
「悪かったな」
「え?」
急な謝罪の言葉に俺が思わず小さな声を上げると、ひなたははっと短い息を吐く。そして遠くを見るような目で彬を見つめた。
「オレたちはさ、彬の全部が欲しかったんだ。今まで心も身体も、他人に開いたことがなかった真っ新のキレイな彬。その彬の心も身体も、全てを俺たちで二人占めしたかった。それが彬の最大の『価値』だったし、間違いなくオレたちのものにできると思ってたのに」
そこまで言って、今度は俺に視線を移したひなたは、ぎこちなく唇の端を上げて不敵に笑って見せる。
「でもそうはならなかった。彬は明確に、クサカベクラマを選んだ。身も心も全部おまえに捧げてしまった。その彬にはもう『価値』がないんだ」
「……っ!」
それを聞いて俺は怒りに拳を握りしめた。だって、勝手に自分たちの物差しで彬を測り、価値がないと決めつけるその言葉に反発心が生まれないわけがないじゃないか。
だけど、無意識に振り上げようとした俺の拳は彬の手に優しく制される。
「彬?」
彬は俺には何も言わず、ふるふると首を横に振った。そして真っ直ぐにひよりとひなたを見つめて苦く、しかしどこか吹っ切れたように微笑む。
「……ありがとう、ごめんな」
その微笑みに、何故かひよりはもとよりひなたも苦しそうに顔を歪めた。ひなたはひよりの肩を抱いていた手のひらをぎゅうと強く握り締め、俯き目を閉じる。
「はは、彬は最後まで残酷だな」
最後にそう言って、ひなたはひよりを引きずるように連れて家から出て行った。一拍遅れてその後ろ姿を追って家を出た俺たちの目の前で、二人は門の前に滑り込むように乗り付けた黒い高級車の後部座席にさっさと乗り込んでしまう。その高級車は二人の姿を呑み込むと、さっきと同じようになめらかに発進して田舎道の向こうに消えてしまった。
「……なあ、もしかしてあいつらは……」
その頃になってようやく、俺は何となくひなたの言葉の真意に思い当たったような気がした。
もしかして、ひなたは俺たちにとっての悪役に徹しようとしたのだろうか。もしも俺たちが彼の言葉を素直に受け止めていたのなら、俺たちは彼らを自分の人生における一種の悪役として記憶したことだろう。それならば彼らのことは思い出す価値もないこととして記憶の彼方に押し込める事もできたはずだった。それは彼ら自身にとっても、彬を忘れてこれからの人生を生きるために必要なプロセスだったのかも知れない。
だが、彬はそれを許さなかった。俺たち自身にも双子にも、忘れることを許さなかった。そういうことだろうか。
結局どれが真実でどうするのが正解だったのか。そんなことは解らない。だけど最後のひなたの言葉から察するに、現実は彼らの思い描いていた結末から大きく外れてしまったに違いない。
「これは俺のわがままだよ」
「………………」
不意にそう言って、彬は俺を振り返る。その彼の姿は朝のやわらかい光を一身に受けて眩しく光り輝くように美しかった。その美しさはいっそ恐ろしさを感じるほどで、俺はほうと息を吐く。そしてそのまま彼の隣に立つと、恭しく手を取ってその手の甲に口づけをした。
「御心のままに……」
そうだ。俺は彬と共に生きていこう。彼のありのままを受け入れよう。きっとこの美しく残酷な男も俺と同じように思ってくれているはずだ。
そう、強く思ったのを覚えている。




