愛と執着の非独立記念日④
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始業のチャイムが聞こえる。スピーカーから聞こえるその音色は若干割れ気味でザラザラとしたノイズだらけ。だけどその音を聞いた俺はようやく諸々の私情を排して業務に集中し始めることが出来た気がした。
だがその集中も長くは続かない。
「あの……」
自分のデスクでノートパソコンの画面とにらみ合っていた俺に、受付の松原さんが声をかけてきたのだ。彼女の声は概ね平坦だったが、僅かながら苛立ちも含まれているように感じられた。
俺が顔を上げて傍らに立つ松原さんを見ると、彼女はどこかうんざりしたような表情。普段はポーカーフェイスな彼女のその顔を見ただけで、こちらも何となく事態を把握して渋い顔をしてしまう。
「またですか?」
訊ねると、彼女はこくりと頷いてから受付カウンターの方向に視線を送った。
どうやら厄介な客が来てしまったようだ。思わず重いため息が漏れる。しかし客である以上はこのまま放置しておくわけにもいかない。
「わかりました、任せて下さい」
ぐっと肝を据えてデスクから立ち上がった俺は受付カウンターへと向かった。
そこで待っていたのは、思った通りの二人組だ。彼らは双子の姉弟、ひよりとひなた。出会った当初はゴスロリ、ゴスパンク風のナリだった彼らだが、今はまた少し傾向を変えている。いわゆる地雷系と言われるファッションだそうだ。ウサミミフードのついた白黒色違いのパーカーをルーズに着こなしている。双子の実年齢的にはギリギリ感もあるが、似合っているには似合っている。
双子は俺を見つけると、瓜二つの美しい顔を何故か嬉しそうに微笑ませて手まで振ってみせた。
(まったく、呑気なもんだな……)
そんな風に考えながら目を細めた俺は、平静を装って彼らの前に立つとなるべく丁寧になるように訊ねてみる。
「ご用件を伺います」
しかしその俺の言葉の何がおかしいのか、双子は無邪気にきゃらきゃらと笑って顔を見合わせた。
「ゴヨーケンヲウカガイマス、だって! 全く、相変わらず真面目ねぇ……」
「ま、それがコイツの数少ない良いとこだけどな」
「あはは、言えてる!」
好き勝手な言葉を並べて盛り上がる二人。やはりまともな用件などないのだろう。つまりは冷やかし、業務妨害。その類いだ。
そう見定めた俺は、すうと大きく深呼吸をする。そしてにっこりと顔面に完全によそ行きの笑顔を貼り付けて、きっぱりとした口調で言葉を突きつけてやる。
「用がないのでしたらどうぞ、お、引、き、取、り、ください」
俺の渾身の塩対応に、笑顔だった双子も一転不満そうな顔で声を上げた。
「ちょっと、もっと話をききなさいよ!」
「そうだそうだ!」
そんな風にわあわあとわめき抗議する彼らの様子に、さすがの俺も笑顔が引きつり出したのは無理からぬ事だと思って貰えるだろうか。だってここは役場の受付で、わめく双子と俺の様子を他の職員も来所者も見ているのだから。
殆どの住人同士が知り合いみたいな小さな村の役場のことだ。この場にいるほぼ全ての人が俺たちの『事情』を知っていて生暖かい視線を投げかけてくるのが逆に居心地悪かった。
ついに俺は笑顔を保つことができなくなる。遠い目をして細く深く息を吐くと逃避するようにあの日のことを思い出した。




