愛と執着の非独立記念日①
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引かれたカーテンの隙間から朝日が差し込んだ。俺の目に目蓋の上から自分の存在を焼き付けた朝の光の向こうから早起きの鳥たちのさえずりが聞こえる。
朝がきた。少し寒いが、すっきり晴れて気持ちの良い春の朝だ。
俺は暖かい布団の中でまだとろんと夢の中にあるような目を擦りながら辺りを見回す。そこは見慣れた自分の部屋のベッドの上だった。
「んー……、あれ……?」
一瞬、俺は自分が自室で目覚めたことに僅かな違和感を感じる。もっと別の場所で眠りについたような、そんな気がしたのだけれど。
長い夢を見た後は夢と現実がごっちゃになりやすい。思えば今も随分と長い夢を見ていた気がした。
(どんな夢だったっけ……)
だが足早に抜けていく夢の感覚と共にその違和感もすぐ融けて薄れていってしまう。
俺は仕方なく夢の内容を思い出すのを諦めて後頭部に手をやり、布団からむくりと上半身を起こして大きな伸びをした。
今日も役場は通常開所だ。俺も入職して三年目。いつまでも新人気取りではいられない。早く起きて支度をしなくては。
「んむ……ぅ」
不意に鼻にかかった小さなうめき声が聞こえて、俺は自分の隣に背を丸めるようにして眠っている人物に目をやる。色素の薄い猫っ毛が布団の上でさらりと揺れた。
彼の名は彬。俺の可愛い恋人だ。どうやら俺が身を起こしたことで出来た布団の隙間から冷気が入り込み、彼の眠りを妨げてしまったようだった。
本当ならばもうしばらく寝かしておいてやりたいところだが、近頃はそうも言っていられない。俺は肩を軽く揺すって彼の覚醒を促した。
「彬、そろそろ起きる時間だぞー」
「んー……?」
彬は眉をきつく寄せて目蓋を震わせる。そして薄らと目を開いて視線を彷徨わせた。とろんとした瞳がふらふらと宙を辿り、最後に俺を見つけてふと甘く微笑む。
そのとろけた微笑みにどきりとしながら、俺は彼の髪を撫でる。彼は甘える猫みたいに小さく喉を鳴らしてその手を受け入れると、少し掠れた声音で囁いた。
「……おはよう、鞍馬」
「っ……!」
これは毎日交わしているなんでもない朝の挨拶のはずだ。それなのに、今日はやけにその言葉が胸に響く。
初めて彬と身も心も通わせることができたと確信したあのオレンジゲイブルズの朝を、初めて俺の隣で目覚めた彼がはにかみながらしてくれたあの挨拶を思い出す。
今の気持ちは、その時に感じた嬉しさと幸せで胸がいっぱいになって少し息苦しいようなそんな感覚ととてもよく似ていた。
(ああ、そうか。今日は――)
不意に今日という日の意味を思い出した俺はじわりと滲んできた嬉し涙を再度目を擦ることで誤魔化すと、ぱちぱちと目を瞬かせてから彼を見つめて挨拶を返した。
「おはよう、彬……」




