オレンジゲイブルズの一夜②
シャワーを浴び終えると、俺は事前に見つけてきていたクリーニング済らしいルームウェアの上下に袖を通して二階へと足を運んだ。
シャワールームの前を通っても水音は聞こえなかった。鞍馬はもうシャワールームから出ているのだろう。少し緊張しながら、シャワールームの隣にある寝室の様子を窺った。
広めの寝室は薄暗いが、ベッドサイドのルームライトがふわりとした優しいオレンジ色の光を灯している。その光に照らされて、部屋に置かれていたセミダブルの大きなベッドの上に鞍馬が仰向けに身を横たえているのが見えた。
俺はそっとベッドに近付く。眠っているのだろう。俺が着ているのと同じデザインのルームウェアを着た胸がゆっくり上下していた。僅かながら、すうすうという健やかな寝息も聞こえる。
俺は鞍馬を起こさないように静かにベッドの端に腰掛けた。ギシリと小さな音がして心臓が跳ねるが、鞍馬は何事もなかったように寝息を立て続けていた。
この二日ばかりの間に色々なことがあった。鞍馬はとても疲れていたに違いない。俺が胸の痛みを堪えながらシャワーに費やした時間も長すぎたのだろう。眠くなるのも仕方が無いと思う一方で、置いていかれてしまったようで面白くないと思う気持ちもあった。
目の前で鞍馬が無防備に寝姿を晒している。それを見つめながら相反する気持ちを心の中で転がすうちに、俺は自分の胸に邪なものがするりと忍び込んでくるのを感じていた。
平たく言えば、ムラッとしたのだ。
俺は思わず手を差し出して、鞍馬の胸の上に指先を落とす。そして撫でるように緩やかに胸から鳩尾のあたりまでを指先で辿った。服の上からの行為だったが指先には鞍馬の暖かな体温が伝わってきて、頭が真っ白になってしまうくらいの激しい感情が身体を貫いた。その感情を抑えられずに、俺はベッドの上に全身を乗り上げるとそのまま鞍馬の上に馬乗りになる。
「ん……?」
その瞬間、鞍馬が鼻にかかった息を吐いて目覚めそうになった。しかし俺は鞍馬の覚醒を待たずに、その唇に噛みつくようなキスを仕掛ける。
技巧はない。ただ、想いを込めた必死のキスだった。
しばらくの間、俺は鞍馬の唇に夢中になっていた。だけど、とんとんと優しく脇腹を叩かれたのに気付いて、そっと顔を上げる。するとルームライトの光を受けてきらきらと輝く瞳が楽しそうにこちらを見ていた。
「もしかして、俺、襲われてる……?」
くすくすと笑いながら冗談めかして言う鞍馬を、俺は不機嫌を隠さずに睨み付ける。そして爆弾の起爆スイッチを押すような勢いと覚悟を持って宣言した。
「……襲ってるに決まってるだろ」




