オレンジゲイブルズの一夜①
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ザアアアァ……。
頭の天辺から熱いシャワーの湯をたっぷりと浴びる。
身体の線に沿って滑り落ちるその熱さに、冷えて緊張していた身体がゆっくりとほどけていくのを感じて思わずほっと息を吐いた。濡れた前髪をざっと掻き上げて、天井を振り仰ぐ。睫毛に纏わりついていた水滴を何気なく指先で弾き、湯の温かさを最大限に享受するためにそっと目を伏せた。
そのままぼんやり湯を浴びていると、にわかに胸の奥がむずむずとするような歯痒い感覚に襲われた。その感覚に閉口して、きりっと奥歯を噛みしめる。疼く胸を両手で押さえながら、心の中で小さく悪態をついた。
(馬鹿……)
橙色の切妻屋根の家。その庭や外観は空き家のようだったが、家の中は綺麗に掃除が行き届き、いつ人がやって来ても大丈夫なように設備も消耗品もきちんと整えられていた。ガスも水道も電気も生きていて問題なく使用できそうだ。
一通り家の中の状況を確かめた後、ひとまずシャワーを浴びることを提案したのは鞍馬の方だった。車の中が暖かかったとはいえ、濡れた身体はまだ冷えている。暖まるにはそれが手っ取り早いだろう。異論はなかった。
だが、鞍馬は続けて「自分は二階にあるシャワールームを使う」と言い出したのだ。
この家には一階に湯船のある風呂場が、二階にはベッドルームの隣に小さなシャワールームが設置されている。確かに、両方を使えばどちらかを濡れたままで待たせることはないだろう。実に理にかなったやり方だった。
だけど、実を言えば俺はそれとは全く別の期待をしていた。
俺たちは先ほど想いを確かめ合った恋人同士なわけで。今はシャワーを浴びるための短時間といえども鞍馬と離れたくなかったのだ。
だが、鞍馬は別々に入るのが当然のことのように話を進めてしまう。
確かに例え恋人同士と言えども、距離感や許容範囲は人それぞれだ。鞍馬が一緒に入ることを良しとしないのならば仕方がない。受け入れるしかないじゃないか。今こんなに寂しさを感じるのは、きっと寒さが人肌恋しさを増幅させているからだ。シャワーを浴びて、湯が肌に馴染む頃には納得できるに違いないと思ったのだが。
(馬鹿……)
強く唇を咬んで、俺はもう一度同じ悪態をつく。
熱いシャワーを浴び、冷えた身体は温まっていた。しかし、やはり胸はぎゅうと締め付けられるように痛むのだ。その痛みを鎮めるために、俺は胸に置いた手でかきむしるように肌に爪を立てた。痛みで痛みを誤魔化すようなその行為に、俺は小さく自らを嘲り笑うことしか出来なかった。




