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非独立記念日  作者: 小野セージ
第三話
64/86

招かれざる客③

 俺たちが後部座席にひとまず着席したのを確認すると、男は前方の扉を開けて自分の身体を運転席に滑り込ませた。そして慣れた手つきで手早く運転の準備を済ませ、ハンドルを握る。パーキングブレーキを解除してアクセルが踏み込まれると、車はなめらかに発進した。

 見た目は高校生だと言っても違和感のないくらいの彼だが、その運転技術は確かなものだった。車がフラつくことはおろか、目立った揺れもない。乗り心地は悪くなかった。

 しかし俺はどこか落ち着かず、膝の上に乗せた拳には力が入りっぱなしだった。この男に刃向かうことをしないと決めたのは自分だ。だが、それが本当に正しかったのか、今になってとても不安になる。自分の膝の上で小さく震える拳。俺はそれをじっと見つめていた。

 だがその時、ふと隣の鞍馬が動く気配がした。鞍馬はその手をそっと俺の震える拳に重ねて、握り込んだ。鞍馬の表情を窺うように視線を上げると、彼もこちらを見て安心させるように僅かに微笑む。

 鞍馬は俺の手を握りながら、視線を上げて運転席の男を見た。そして、しっかりと芯を持った声で彼と言葉を交わし始めたのだ。

「なあ、あんたは誰なのか、何が目的なのか、そろそろ教えてくれないか?」

「えー、オレぇ? さっきも言ったでしょ? オレはあなたたちお二人の味方だよ」

 鞍馬が問いかけると、運転席の男は甲高いような空々しい声でそう言った。その彼の口元がにやりと不敵に微笑んでいるのがバックミラー越しに確認できた。

 多分、彼は自分の素性や目的を知られたくないのだ。だからはぐらかす。

 だけど、鞍馬は負けじと目を眇めて、考えるような仕草をした。

「たまたま見かけたずぶ濡れの俺たちを気遣って、ってわけでもないだろう? なぜ俺たちに、なぜあんたが、なぜそこまでしてくれるんだ? そこには、何かしらあんたにとってのうま味があるんじゃないのか?」

「………………」

 果たして鞍馬の言葉に、運転席の男は黙ってしまう。相変わらず揺れも少ない、見事な運転。だが、その背中には僅かながら苛立ちが見て取れた。

「アハ、鞍馬サンって、思ったより好奇心が強いんだねぇ」

 運転席の男はふと小さく息を吐くと、そう言ってからからと笑って見せる。だが、すぐにその笑いを引っ込めると、バックミラー越しに仕方ないものを見るような目でこちらを見て低く呟いた。

「だけどサ、あんまりわきまえないと、あんた早死にするよ?」

「……!」

 男が突き出してきたのは「死」という物騒な言葉。思わず俺は鞍馬の手を強く握り返し、縋るようにその顔を見て首を横に振った。

 自分でも自分の表情が強張っているのが解った。この際、この男が何者で、どんな目的を持っているかなどどうでもいい。この男の言う通りに行動していれば俺たちの身の安全が保証されるのであれば、俺は何でもするつもりだった。

 だけど今度の鞍馬は引き下がることはなかった。男から視線を逸らすことなく、俺が強く握り返した手を宥めるように柔い力で包み込む。

 バックミラーでこちらをちらりと見て、運転席の男は一瞬鼻白むような様子を見せた。まるで面倒くさい奴を相手にしてしまったとでもいうように、小さく嘆息する。だが、彼はすぐに視線を真っ直ぐ前に向けて思いの外静かな声で呟いた。

「まあ、ね。さっきの言葉、否定はしないよ。オレがお二人に便宜を図るのは、純粋にお二人のためというわけじゃなくて、オレにも相応の利益があるからだ。だから、安心してついてきてよ」

 その言葉を受けて、俺と鞍馬は顔を見合わせる。俺はまだ不安そうな顔をしていたに違いない。だけど鞍馬はその俺を安心させるように微笑んでいた。

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