素直な気持ち⑥
「……? 姉さんと黒野?」
鞍馬の戸惑うような声がした。
俺は鞍馬の胸に顔を埋めたまま、感情のままにわめき散らす。
「二人とも、お前のことが大切なんだ。だから、加羅里さんはお前に縁談を持ってきたし、お前の気持ちを知ってその縁談の話を胸に納めてくれた。黒野さんもそうだ。お前の過去もお前の俺への複雑な気持ちも知った上で、お前のために俺にお前の過去も未来も、全てを託してくれた。みんな、お前に幸せになって欲しかったからだ!」
「……っ!」
その言葉に、鞍馬は返答に詰まるかのように息を呑んだ。俺の言葉は鞍馬にとって寝耳に水だろう。だけど俺は全て伝えるべきだと思った。全て知って、どれだけ自分が愛されているのかを思い知ればいいと思った。
鞍馬はしばらくの間、考え込むかのように無言だった。しかし、彼はすぐに天を仰ぐように顎を上げ、ふぅーと細く長い息を吐く。
「ああ、そうか。いつからか、俺はもう一人でも生きていられるんだなんて思い違いをしていたけれど、実際の俺は今もたくさんの人に支えられて生きていたんだな」
「そうだ、だからお前は生きてなきゃいけない。村の人たちのためにも、加羅里さんや黒野さんのためにも。……それに俺のためにも。笑って泣いて、生きて……」
そう言ってぐずる俺を、鞍馬はへそを曲げた子供にするように背中を軽く叩きながらあやすと、今度は大きく息を吸い込んだ。そして俺の耳に直接言葉を吹き込むように囁く。
「俺は、そのことを教えてくれた彬のことが、そして何よりもこのどうしようもない俺を愛してくれた彬のことが、とても好きだ。愛してるよ。……いや、それだけじゃない。素肌で抱き合って融け合って、ひとつになれたらと心から思うんだ」
ほんの少しの照れと一緒に囁かれた唐突な告白に、俺は目の前にぱちぱちと火花が飛ぶような感覚を覚える。同時に鞍馬に触れている箇所から途方もない多幸感が忍び込んできて、全身を駆け巡るように満たした。
「彬……」
鞍馬は俺の名前を呼びながら、そっと首筋に唇を這わせた。微かに吸い付く音を立てながら、場所を変えて余すところがないようにキスの雨を降らせる。
俺はそのことに初めて、唇だけでも心だけでもない、肉体までも全てを求められているのだと感じることができて、はあと充足した熱い息を漏らした。じんと脳髄まで痺れるような甘いうずきが全身を支配する。
鞍馬の指が俺のシャツのボタンに掛かった。その指は僅かに震えていたが、それでも存外器用に動いて一つずつボタンを外していく。鞍馬の手のひらは俺の素肌の胸のなだらかな曲線に沿うようにすべり、シャツを割る。そしてはだけさせた俺の胸、どきどきと鼓動する心臓の上に軽く唇を落とした。そのくすぐったさに目を眇めた俺を、鞍馬は下から見上げるようにして甘く低く掠れた声で懇願する。
「彬、俺にお前を抱かせてくれ」
俺はぐずぐずにとろけてしまいそうな甘酸っぱい気持ちと共に、小さく、でも確かに頷いてみせたのだった。




