素直な気持ち⑤
俺が言い放ったのは、昨日までの俺がずっと口にして伝えることを躊躇していた言葉だった。俺には愛されているという自信がなかった。愛されていないかもしれない自分がそれを口にしていいのかどうか、ずっと迷っていた。
だが、今は伝えるべきだと思った。それが自分の一番素直な気持ちだったからだ。
それが鞍馬の心に響いてくれるかどうかは一つの賭けだった。
本当を言えば、俺だって不安でしかたがなかった。もしも、この言葉を持ってしても鞍馬の気持ちを変えられないのであれば、俺にはもう為す術はないのではないかと。
その時のことを考えると、鼻の奥がつんとする。目頭が熱い。見る間にあふれて、今度こそ止まらなくなった涙を拭うこともできずに、俺は鞍馬の胸に顔を埋めた。
そして、すんすんと小さく鼻を鳴らしながら、懇願するように言い募ってしまう。
「だから、お願いだ。死ぬなんて言わないでくれ……。俺を、置いていかないで……」
「あ、きら……」
俺の名を呼ぶ微かな声と共に、鞍馬の両手がふわりと肩に掛かったのが解った。触れるのも怖いというように、慎重な手つきだった。その鞍馬の表情を見るのが怖くて、俺は子供がイヤイヤをするように鞍馬の胸の中で首を横に振る。
「彬……」
再度、鞍馬が俺の名を呼んだ。幾分しっかりとした声だった。
それと同時に、肩に掛かっていた鞍馬の手がするりと背中に移動して、俺を力強く引き寄せる。
「あ」
その思わぬ力強さに、身じろぎをして目を見張った。それでも鞍馬はぎゅうぎゅうといささか乱暴なくらいの強さで俺を抱きしめ、その背を熱心に撫でる。
そして、彼は感極まったような声で呟いたのだ。
「ごめん、俺が馬鹿だった。いつの間にか俺は、彬の気持ちも、自分の気持ちも、蔑ろにしていたんだな」
その言葉に、俺はぱっと顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃのみっともない顔だっただろうけれど、構わずに鞍馬の瞳を見つめる。その瞳は幾分潤んではいたけれども、先ほどのような昏い絶望の感情は見えなかった。
「……っ!」
そのことが胸が破裂してしまいそうなくらいに嬉しくて、息を詰める。今度は嬉しさに滲んできた涙を隠すためにもう一度鞍馬の胸に顔を埋めると、天邪鬼な俺はくぐもった声で彼を罵倒した。
「馬鹿鞍馬! それだけじゃない。お前は、加羅里さんや黒野さんや村の人たち、お前を大切に思ってくれてる全ての人たちの気持ちも、全部踏みにじるところだったんだぞ! 加羅里さんや黒野さんが昨日どんな気持ちで家に来て、どう俺たちを見てくれていたか、どういう気持ちで帰っていったのか、きちんと考えろ!」




