素直な気持ち④
だけど、俺はと言えば鞍馬のその場違いな穏やかさに、ぎりと音がしそうなくらい唇を噛み締めていた。唇の皮がぷつりと破れて、薄く血の味がする。
俺は心底腹を立てていた。当然だ。これが腹を立てずにいられるものか。
鞍馬は遺される悲しみを誰よりも知っているはずなのに。それなのに、見当違いの思い込みで俺や、加羅里さん、黒野さん、果てはずっと見守ってきてくれたはずの村の人たちにまでその悲しみを背負わせようとしているのだ。
俺は腹立ち紛れに鞍馬の濡れて肌に張り付いた襟ぐりを掴むと、ぐいと自分に引き寄せた。至近距離でにらみ付け、そして低く凄みを利かせた声で宣言する。
「それはお前が決めることじゃあない、俺が決めることだ!」
「……?」
それでも何も解っていないかのような怪訝そうな表情をして見せる鞍馬に、俺は小さく舌打ちをしてから、自分の気持ちを率直に伝えるための行動を起こした。
「あき――?」
俺の名前を呼ぼうとした彼の濡れた唇に、噛みつくようにして自分の唇を押しつける。薄く開いた唇の隙間から舌を差し込み、そのまま彼の舌をぞろりとなぞれば、ぞくぞくするような心地よさが俺の脳を揺らす。
しかし、その心地よさに身を委ねる俺とは逆に、鞍馬は身じろぎをしてからぱっと一歩退いてしまう。その鞍馬の目には戸惑いと罪悪感があふれていた。
「……駄目だ」
「駄目じゃない」
俺は逃さないように鞍馬の手首を掴んでから彼の胸に飛び込むと、たっぷりと唾液を絡めた舌で彼の唇を舐める。その唇は細かく震えていた。
俺は鞍馬の震えを止めてやりたかった。目を閉じ首を傾げながら、もう一度深く唇同士を触れあわせると、食むようにしてその唇を味わった。最後に軽く音を立てて唇を吸うと、掴んでいた強張る鞍馬の腕から力が抜けていくのを感じた。
「………………」
俺たちは双方ゆっくりと目を開き、至近距離で見つめ合う。少し落ち着いたのか、鞍馬はもう震えてはいなかった。だけどまだ不安そうな光のない目で俺を見つめている。
俺はその最後の不安を払ってやろうと深く息を吸ってから、小さな、しかししっかりと届くように芯を持った声で語りかけた。
「俺の気持ちを勝手に決めつけるな。俺は端から双子について行くつもりはないぞ。それに何より、俺はお前が思ってる以上にお前のことが好きなんだ」
そこまで言ってから俺は鞍馬の瞳をじっと見つめて、鋭くとどめをさすようにこの言葉を突き出した。
「……愛してるって、言ってるんだ!」




