素直な気持ち②
「くら――」
「どうして、死なせてくれなかったんだ……」
もう一度、俺が名前を呼ぼうとした瞬間、鞍馬はぼそりと呟いた。そして次の瞬間、喉を切り裂くように声を上げる。
「俺は死にたかったのに、どうして放っておいてくれなかったんだよ!!」
「っ……!」
鞍馬の慟哭。その悲痛な響きは無遠慮に俺の心を切り裂いた。それは彼の行動からある程度予測していた言葉のはずなのに、実際に彼の口からその言葉が出た衝撃に、俺は立ち尽くす。胸がずきずきと痛む。喉がひきつれて声を出せなくなる。言ってやりたいことはいくらでもあるのに、俺ははくはくと唇をわななかせることしかできなかった。
鞍馬は興奮しているのだろう。ふぅふぅと荒らげた息を吐き、唇を噛み締めて視線を足元に落とした。
その間に、俺は自分を落ち着かせるようにそっと瞑目する。そして心の中で何度も言い聞かせた。
(鞍馬がそう思っているだろうことは解っていたはずだ。怯むな、考えろ。俺が本当の意味で鞍馬を助けられるかどうかは、ここできちんと彼を納得させられるかどうかに掛かっているんだから)
は、とため息みたいな大きな息を吐いて、俺はゆっくりと目を開いて鞍馬を真っ直ぐに見つめた。鞍馬はそれを嫌がるように視線を逸らしたが、俺はそれでも彼を見つめ続けた。
「何故、死にたいと思ったんだ?」
「……何故? だって、俺は……」
俺の問いかけに、鞍馬はそこまで呟いてくしゃりと表情を歪める。その瞳は惑うように細かく揺れていて、まるで言葉を続けることを迷っているようだ。
「俺は……、俺、は……」
鞍馬はうわごとみたいにぼそぼそとそう繰り返す。俺は彼を急かすことはしなかった。そのかわりに彼の言葉を聞く前に退くこともしないと誓っていた。俺は辛抱強く鞍馬の覚悟が決まるのを待った。
そしてついにその時が来る。恐る恐るではあったが視線が合わせられ、そして――。
「……っん?」
月の光を抱き込んできらきらと光る目。震える唇。だけど、言葉を紡ぐかに思えたその唇は、すいと近付いてきて俺の唇に押し当てられた。
軽く触れるだけの、あえかなキス。だけど、触れられた唇は温かくて、そこから彼の気持ちが俺のナカに吹き込まれるようだった。
鞍馬の唇はすぐに離れていってしまったけれど、そこから今度は堰を切ったように言葉がこぼれだす。
「だって、彬がいなくなったら、俺は生きていけないんだ……!」
「……!」




