帰宅②
だが、車から待ち人が降りてくるのを待っていた俺はすぐに違和感を覚える。運転席のドアは一向に開く様子がなかった。ここからでは車の中は薄暗くてよく見えない。
またしても不安が募り、俺は鞍馬の無事を確かめるために思わず車に駆け寄ろうとした。
だが、その気配を察知したかのように後部座席のドアが勢いよく開くと、そこから飛び出した黒い影が二つ、俺に向かって急接近してきたのだ。
「!?」
驚いて思わずたたらを踏む。それでもその二つの影は容赦なく俺の胸に吸い込まれるように飛び込んできた。どんという音と共に俺はその場に引き倒される。盛大に尻餅をついたその痛みに涙目になりながらもその二つの影の正体を見定めようと目をぱちぱちと瞬かせると、自分の胸に縋り付くそれらが何なのかをようやく理解して俺は目を剥いた。
「彬っ!」
「彬ぁっ!」
それは名前を呼びながら、俺の胸に縋って嗚咽する一組の男女だった。昔と服装のセンスはだいぶ変わっていたが、二人には俺がまだ大学に通っていた頃に毎日のように絡んできた双子の後輩の面影があった。
「ひよりとひなたか? どうしてここに……」
戸惑った俺が二人の肩に手を置いて問うと、ひよりはキッと顔を上げて眉を寄せ怒りの表情を見せる。
「どうしてもこうしてもないわ! 急に行方不明になった貴方を、この五年、私たちはずっと追っていたのよ!?」
「は!? 五年も!?」
思わず驚嘆した俺に、今度はひなたが食ってかかった。
「五年もひとところに留まることをしなかったのはお前だろ!? ……俺たちは、ずっと心配してたんだぞ!?」
「………………」
それはにわかには信じがたい話だった。
この二人は代々幾人もの代議士を輩出してきた名門一族の出で、名誉は勿論、そこらにいる並の金持ちよりも更に頭ひとつ抜きん出た財力、高い水準の教育を受けてきた故の教養、果てはこの万人が振り向くような美貌、他者が羨むものほとんどを持ち合わせていた。たった一つ、倫理観にだけは難があったが、誰にでも物怖じも分け隔てもせずに真っ直ぐに話をする彼らの態度は痛快であったから、疎まれることもなく友人も多かったと記憶している。
そんな二人が何の取り柄も持たない俺に構っていたのは、正にほんのすこしのきまぐれに過ぎないのだと、俺がいなくなっても彼らは何も変わりなく輝かしい日々を過ごしているのだろうと思っていた。
なのに、彼らは俺を五年も追っていたという。
その事実に俺は呆然と二人を見つめるしかない。




