ブラック・ゴシック・ロリータ/ブラック・ゴシック・パンク⑤
まるで棒きれになってしまったかのように足を突っ張り立ち尽くす俺の耳元に、ひよりは追撃をするようにとろけるような甘い声で囁きかけてきた。
「ふふ、ひなたが無礼をはたらいたわね、ごめんなさい。でも私たちは、あなたが思うより色んなことを知っているのよ。例えば、あなたと彬の間にまだ肉体的な関係がないこととかね」
「っ!?」
俺はひゅっと鋭く息を吸い込んで、声を上げそうになるのを無理に防ぐ。
そんな俺の反応を見て、ひよりは至極楽しそうにいつの間にか手にしていた事務的な青いファイルをパラパラと開き、そこに収められた書類の文言を目で追う。
「あは、大当たりね。さすがにトラの情報は正確だわ」
その「トラ」というのが何なのか、定かではない。ひよりの発音から察するに人名のように思えたが、もしかして彼らのお抱え諜報員だとでも言うのだろうか。どこか浮世離れした二人の様子からするとそれが一概に笑い話にならないのが苦々しい。
俺が表情を歪めたのをどう受け止めたのだろうか。ひよりは推理をするように軽く握った拳を唇にあてる芝居がかった仕草をした。
「肉体関係がないのは、あなたが望まないからよね。だって元々あなたはゲイでもなんでもないんですもの。彬に本気になられて、本当は困っているのではなくて?」
「……ちがう」
俺の答える声は酷く掠れていた。どうしてだ。もっと堂々と否定してやりたいのにそれができない。
「それとも、彬を自分が頼って欲しい時に頼ってくれる、それでいて煩わしい肉体関係は持たなくていい、そんな都合の良い存在と思っているのかしら?」
「……ちがう、ちがうっ!」
俺は小さな子供が駄々をこねる時のように首を左右に大きく振った。
「……俺、は」
要領を得ない断片的な言葉たち。ひよりはすぐに俺に対する興味を失ったように口元を引き締める。
「いいかしら、彬のことは私たちに任せてちょうだい。私たちだったら、彬を寂しがらせない。いつでも側に居て、求められたら体温を分け合うわ。彬のことを愛しているんだもの、当然よね」
「………………」
俺は頭を抱え込んだ。胸の鼓動に合わせてこめかみがズキズキと酷く痛む。暑くもないのに汗が止まらない。
そして、ひよりは苦しむ俺を三日月のように細めた目で見つめ、奈落の底へ蹴り落とす言葉を吐いた。
「あなたが心配することなんて何もないわ。あなたといても、彬は幸せになんてなれっこないの。私たちに任せるのが、彬のためよ」
「彬の、ため……」
その言葉に、俺は……。
俺は……。




