ブラック・ゴシック・ロリータ/ブラック・ゴシック・パンク④
「……私、たち?」
それがどういう意味なのか測りかねた俺が訝しげに訊ねると、ひなたは武勇伝を語るようににやりとその美しい顔を野卑な笑みに染めた。
「彬をその気にさせるのは割と大変だったんだぜ? 恋人はいらないし、二人をいっぺんに恋人にするのはそもそも無理だ、って言い張ってさ。二人で一ヶ月、毎日朝から晩までしつこく拝み倒してようやく受け入れて貰えたんだからな」
なるほど、どうやら「私たち」とは言葉通り、ひよりとひなたの双方が、という意味らしい。急にそんな倫理に悖る提案をされた当時の彬の戸惑いは察して余りある。
しかも、ひなたの言葉が真実ならば、彼らは随分と強引に彬を籠絡したようだ。そのことに、俺は知らず苦虫を噛み潰したような渋い表情になっていた。
「彬を、強引に自分たちのものにしたのか」
だけど俺の批判も彼らには何処吹く風だ。
その上ひよりは可憐に両手の指を胸の前で組んで、俺ににこりと微笑みかけてみせる。
「確かに、少し強引だったかも知れないわね。でも、彬は最終的に受け入れてくれたわ」
「……無理矢理受け入れさせたんだろう?」
俺は胸が悪くなるような気持ちでそう吐き出した。だがその言葉を聞いた瞬間、ひなたの目が据わる。下から睨み上げるように俺を射すくめ、また大きな声でこちらを威圧した。
「うるせぇなぁ。てめーにしゃちこばって説教垂れる資格はねぇだろうが。てめーは彬を愛してるんじゃねぇ。彬じゃなくても、頼ってくれるなら誰でもいいんだろうが? そんなてめーが彬を本気で愛してる俺やひよりに意見できるとでも思ってんのか?」
「……っ!」
その言葉に俺は思わず唇を咬んだ。反論できなかった。
しかし、なんで彼らがそんなことを知っている?
激しく戸惑う俺の様子を見て、ひなたは溜飲を下げてにやつく。そして、煽るように語尾を上げて俺をあげつらった。
「はは、何も言えねぇよなぁ? それが真実だもんな?」
ひなたの手が俺の胸をドンと押す。その手に大した力は入っていなかったのに、俺は小さくよろめいた。
「……ひなた、手を出しては駄目よ」
俺たちのやりとりを子供同士がじゃれているのを見るような優しい目で見ていたひよりだったが、ひなたの手が出始めたことにふと嘆息して煩わしそうに制止の声をかける。
それは決して暴力は良くないだとかいう生ぬるい感情に起因したものではない。ただ、自分たちが不利にならないための方策でしかない。きっと彼らにとって、世間の法や倫理などは邪魔なものでしかないのだろう。その枷がなければ力ずくで彬を奪っていくことも辞さないに違いない。
ひなたはひょいと軽く肩をすくめてひよりに従い、俺を小馬鹿にしたように小さく舌を出してきびすを返した。
それでも俺は何も言わずにその場に立ち尽くすしかない。




