ブラック・ゴシック・ロリータ/ブラック・ゴシック・パンク②
「あら、ひなた。ええ、私は大丈夫よ。ナンパやスカウトなんて慣れっこだものね。あしらい方くらい心得てるわ」
一方、ひよりと呼ばれた女性は鼻高々に胸を張り顎を上げた。どうやら俺は誤解されたままのようだ。
だが女性にひなたと呼ばれた男の方はそんな彼女の反応にぶるぶると首を横に振った。そして俺の鼻っ面にびしりと指を突きつける。
「ばか! こいつだ! こいつがクサカベクラマだ!」
「え……?」
彼の言葉に、女性――ひよりは眉根をぐっと寄せて訝しげな声を上げた。そのままちらりとこちらを窺うように見てくるが、俺は肩を竦めるしかない。
「確かに、俺は草壁鞍馬だけど……」
嘘をついても仕方がない。俺が認める言葉を口にすると、目の前の二人からはとても剣呑な気配が立ちのぼった。
それは先ほどまでの比ではない、凄まじい敵意だった。
だが一方で俺はその二人の敵意を他人事のようにしか受け止められなかった。
彼らとは今までに会った記憶もなければ、名前を教えた記憶もない。こちらは辛うじて彼らが「ひより」と「ひなた」という名なのだと理解するだけなのだ。一方的に敵意を押しつけられても困ってしまう。
「……なあ、俺にも事情が解るように説明してくれないか?」
俺はため息ついでに彼らにそうやって訊ねてみた。しかし、男――ひなたはその綺麗な顔には似合わないチンピラのような勢いで、俺にガンをつける。
「は? なんでそんなことしてやんなきゃなんねーんだよ!」
威圧してこちらの調子を乱してやろうという意図が丸見えの彼の態度に、俺はその場で小さく深呼吸をした。怯んだり、対抗して威圧しかえそうとすれば相手の思うつぼだろう。俺は努めて冷静に彼をじっと見つめる。
「……ひなた!」
その時、後ろで俺たちを見ていたひよりがひなたを制するように名前を呼んだ。ひなたははっと驚いたようにひよりを振り返り、しばらく堪えるように唇を咬む。彼の黒い革手袋に覆われた手のひらが強く握り込まれ、ぎりという音を発した気がした。
それから、彼はもう一度俺を見て鋭く舌打ちをすると吐き捨てるように呟く。
「ちっ、余裕そうなツラしやがって……」
そう言ってふいと視線を逸らした彼に、俺は内心ほっとしていた。
「ごめんなさいね。私たち、今余裕がないのよ。でも、そうね。少しだけなら話してあげようかしら」
ひなたを制止したひよりは口元に手を当てて少し悩んでからそう言う。言葉上は会話の余地があるように振る舞っているが、彼女の視線はぎらぎらとしていて立ちのぼる敵意も全く消えてはいない。
「ありがたいことだ……」
俺の独り言みたいなぼやきを聞きつけたのだろうか。ひよりはふと微笑む。美しくも毒々しいその微笑みに、俺は背すじがぞくりと冷えるのを感じた。




