ブラック・ゴシック・ロリータ/ブラック・ゴシック・パンク①
▽
「……?」
だが俺は辿るように湖の汀を見て、ふと目を眇めた。何かを見た気がしたのだ。
(人が、いる?)
それは人影だった。全身黒い服を着ているのだろうか。周囲の暗さと湖水の黒さに紛れて見えづらいが、確かにそこに居るようだった。
ざわ、と心が揺れた。そういえば彬を見つけたのもこの辺りだっただろうか。まさか、また誰かが命を捨てにここに来たのでは、という懸念が俺の体を動かした。音を立てないように慎重にその人影に近付く。
いくらか近づくと、そこにいるのが一人の若い女性だということが解った。腰まで伸びた真っ黒な髪と、この辺りではあまり見ることのないゴシックロリータ調の黒いワンピーススカートが彼女を闇に溶け込ませていた。
この場ではあまりに異彩を放つ彼女の格好。俺はその違和感に一瞬躊躇したが、それでもすぐに気を取り直して彼女に近づき声をかけた。
「こんばんは」
ゴスロリ服の女性は驚いた様子でこちらを振り返る。
その顔は、その衣服から想像していたメリハリの効いたメイクを施した顔とは随分異なっていた。多分、彼女は元からはっきりした美しい顔立ちをしているのだろう。薄化粧のようだったが豪奢な服に着られているような違和感は全くなかった。
最初は戸惑ったような顔をしていた彼女だったが、すぐにぎゅっと眉根を寄せて俺を睨み上げてから、つんとすましてそっぽを向く。
「ナンパなら間に合ってるわ」
どうやら俺はナンパ目的と勘違いされたようだった。
「あ、いやその……」
俺が少しだけ困って口ごもると、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「違うの? だったらモデルかタレント事務所のスカウトかしら? どっちにしろ、他を当たってくれない? 私たちには目的があるの」
そういう彼女の表情は迷惑そうではあったが真剣で、冗談を言っている様子はない。一般的に考えて、こんなところでスカウトも何もない気がするのだが。
(しかし今、彼女は「私たち」と言ったか? 連れがいるのだろうか……)
ふとそんなことを考えた時だった。
「……ひより!」
急にそんな感情的な叫び声がしたかと思うと、目の前の女性が急に「二人に増えた」ように見えてぎょっとする。だけどそんなことが実際に起きるはずはなくて。よく見れば、俺と女性の間に彼女とそっくり同じ顔をした人間が割り込んできたのだった。
割り込んできた方も全身真っ黒な服を着ていた。ゴシックパンク調の男物だ。髪が短いくらいでゴスロリ服の女性と寸分たりとも違わない綺麗な顔をしているが、体の線の違いからすると、こちらは男なのだろう。
「大丈夫か、ひより」
背後に庇うようにした女性にそう問いかけて、男は俺をぎろりと睨み上げてくる。ヒリつくような敵意を剥き出しにしてくる彼に、俺は面食らって何も言えずにいた。




