Prologue 罪
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ガコン、と派手な音がして薄汚れた自動販売機の取り出し口にカフェオレの缶が勢いよく落ちてくる。まだ夜は薄ら寒い時期だというのに必要以上に冷え冷えのそれを作業着の袖口で包むように取り出して、俺は夜の湖畔の遊歩道を歩き始めた。
仕事が終わり、家に帰る途中のこと。俺はなんとなくまっすぐ家に帰る気になれなくて湖畔の遊歩道へと向かって車のハンドルを切っていた。駐車場に設置されている自動販売機で買った冷たくて甘いカフェオレを呷りながら、ぶらぶらと夜の遊歩道を歩いてみる。
夜の遊歩道は照明不足でひどく薄暗く、人の気配もなかった。だけど、それは俺にはむしろ好都合だ。俺は誰の目を気にすることもなく、ただひたすら、歩いて、考えることができた。
昨日の夜、黒野と姉さんが急に家にやってきた。珍しいことじゃない。ありがたいことに彼らは俺のことを過剰なくらい気に掛けてくれていて、いくらかまとまった休みが取れると様子を見に来てくれるのはいつものことだった。
だけどいつもなら文句を言いながらも心の底ではありがたいと思う彼らの訪問も、今回は複雑な感情を持たざるを得なかった。
それは彬の存在があったからだ。
俺は自分の「頼られたい」という欲求を満たすためだけに彼を愛することを決めた。それがどんなに不実で罪な考えであるのかは解っていたつもりだった。その罪を一生背負っていく覚悟も出来ていると思っていた。「頼られたい」という欲求さえ満たされればそれくらいは耐えられると本気で思っていたのだ。
だけどいざ蓋を開けてみれば、二人での生活は酷く幸せなものだった。彬が隣にいて。愛し縋ってくれる。それだけで俺はどこか満たされるような気持ちになるのだ。
しかしその幸せと同じくらい、後悔してもいた。不実で罪な考えを持って彬の隣に立った俺。その俺には彼に幸せにして貰える資格がないように感じた。自分が愛されているのかどうか迷いながらも一途に愛してくれる彬を見るにつけ、なけなしの良心がぎりぎりと心を締め付けるのだ。
昨日はなるべく余計なことを言わないようにしていた。それでも、こういったことに気味が悪いくらい勘のいい黒野には俺がどんな気持ちで彬と一緒にいるかなんてすぐに解ってしまうのだろうと思った。
ああ見えて潔癖で曲がったことを嫌う黒野は、俺のしていることに嫌悪感を持つかも知れない。既に俺の罪を曝いて、彬に全てを話していてもおかしくは無かった。黒野と姉さんは昼には帰るつもりだと言っていた。家に帰れば、全てを知った彬と二人きりになることを思うと、酷く気が重かった。
「はあ……」
ため息とともに近くのベンチに座り込み、夜の闇に沈む湖を見る。湖はとろりとした黒い湖水を満々とたたえてただそこにあった。




