灯る光④
俺がその感情に振り回されぬように固く拳を握りしめていると、それを見た黒野さんが小さく表情を曇らせた。
「戸惑うのもわかるよ。鞍馬は君に対して誠実だったとは言えないわけだからね。恨まれても仕方のないことだ」
「別に、鞍馬を恨んではいません。先に縋ったのも、鞍馬の気持ちが俺にないのに何となく気付いていながらずっと鞍馬に甘え続けていたのも、全部俺の方です」
ああ、そうだ。鞍馬は誠実ではなかったのだろう。しかしそれに気づけなかった俺はどうだ。一人で浮かれて、沈み込んで、みっともない姿をたくさん見せた。
だが俺の言葉に、黒野さんは更にどこか困ったような表情をする。
「どうも君には自罰的な傾向があるようだね。多分、君はずっとそうやって生きてきたんだと思う。でも、今はもう少しだけ周囲を見渡してみてくれないかな。他ならぬ、鞍馬と、そして君のためにも」
「どういうことですか?」
戸惑う俺が黒野さんに尋ねると、彼はまるで死地の中に小さな救いを見つけたかのようにその目に強い光を宿した。
そしてその光の灯った瞳で、俺をまっすぐに見つめたのだ。
「君の存在は希望なんだ」
「……え?」
一体何が言いたいのかと思えば、黒野さんはずいぶんと突拍子もないことを言い出した。
俺が希望だって? 何を根拠にこの人はそんなことを言うのだろう。
あまりに予想外の言葉に目を丸くして首を傾げる俺に、黒野さんはふふと小さく笑う。
「そんなに意外そうな顔をしないでくれよ。俺はね、他ならぬ君ならば、あのストイック気取りの大馬鹿者を救ってくれると信じているんだよ」
「そんなの、買いかぶりです。俺には、そんな影響力は……」
「なるほど? じゃあ、君には分かるかな? 鞍馬が君を抱かない理由。鞍馬がそれをしない、できない、相応の理由が」
鞍馬が俺を抱かない理由? そんなのわかりきっている。
「それは……、鞍馬が本当に俺のことを愛していたわけじゃなかったから」
それしか考えられない。俺は即答した。
しかし黒野さんはその俺の言葉を首を横に振って否定する。
「違うな。君が本当に縋ってくれるだけでいいどうでもいい存在なら、早々に抱いて満足させてやるべきじゃないか。それが出来ないのはね、きっと、鞍馬が君を愛し始めているからだよ」
「そんなこと……」
俺は戸惑いのままに緩く首を横に振ってそう口にした。黒野さんの言葉は俺の尺度ではなかなか理解が及ばないものだ。だけど黒野さんは小さな子供に道理を言い聞かせるように、とても熱心に自分の考えを語ってくれる。
「多分ね、自立して誰かを支えなければと思っているその向こう側で、本来の鞍馬は今でも小さな子供の時と同じように愛しい誰かに依存し依存される、そんな関係を欲しがっているんだ。少し歪んで見えるかも知れないけれど、鞍馬にはそれが一番安心できる状態なんだよ。そしてそんな自分にあいつは気づいている。気づいていながら、その気持ちを否定し抑え込んでいるんだ。だからあいつは君を抱かない。抱いてしまえば君を愛し、依存するのを我慢できなくなるのが分かっているから」
そこまで語ってから、彼は茶目っ気たっぷりに微笑んでみせた。




