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非独立記念日  作者: 小野セージ
第二話
42/86

灯る光③

「確かに、これは単なる俺の考え方であって、君に同調を迫れた話ではない。でもね、やっぱり鞍馬は心の底から強かったわけではないと思うんだ。勿論、鞍馬はずっと強くあろうと努力してきたんだろうし、その努力が足りなかったんだと言う気もない。逆に、あいつは強くあろうとしすぎた。自分で自分を強いと思い込もうとして、あいつはその通りの強い自分を演じることしかできなくなっていってしまったのではないかな」

「強い自分を演じる……?」

「そうだ。両親が亡くなってから、加羅里も村の人々も鞍馬をとても心配して寄り添ってくれた。鞍馬はその彼らになんとしても報いなくてはならないと思った。頼られる自立した強い男になって、加羅里に、村に、恩返しをしなくてはと思い込んだ。例えそれが滅私奉公になったとしても、だ」

「でも、それは……」

 それは姉である加羅里さんや優しい村の人々が望んだことだろうか。皆は鞍馬の幸せと安寧を願っていたからこそ、心配し寄り添ってくれたのではないだろうか。

 俺の呟きに、黒野さんは大きく頷いて同意を示してくれた。

「そうだ、皆が望んでいるのはそんな恩返しじゃない。恩を返そうと思うならば、鞍馬はまず自分の幸せを考えるべきだ。だけど鞍馬はそれを頑なに認めようとはしない。さっき加羅里も言っていたが、俺にも最近の鞍馬は酷く無理をしながら生きているように思えてならなかった。今のあいつは、自立したい、自立して他者を支えなくては、誰かに頼られる人間にならなければ、という強迫観念にいつも追われているんだ」

 黒野さんの言うその感覚は、今の鞍馬のことしか知らない俺には分かるはずもなかった。今のそのままが鞍馬という人なんだと思っていたのだから。

「だから、君が必死に縋り付き、頼ってくれた時、鞍馬は自分の今までの努力が報われたように感じたんだと思う。君には辛い話かも知れないが、確かに鞍馬は最初から君に恋愛感情を抱いていたわけではないんだろうな。多分、自分にわかりやすく縋り付いてくれるなら、君じゃなくてもよかったんだ」

 黒野さんのその言葉は、俺にとっては死刑宣告のように聞こえた。

 俺はまるで死んだように表情を動かすこともできなかった。ただ淡々と事実を確かめるように声を発する。

「……じゃあ、鞍馬が俺を二階にやりたがらなかったのは」

「両親の話をすればどうやっても自分の過去を話さなくてはならないだろう。自分の弱さの象徴である過去を、君に知られたくなかったんだろうね」

「そう……ですか……」

 やはり鞍馬は俺を愛してくれていたわけではないのだ。そのことを突きつけられて、俺は酷く落胆した。だがそれは鞍馬に対する感情ではなくて、愛されることの出来なかった自分に対する感情だったように思う。そしてその感情は僅かながら、疑いながらも揺蕩っていた夢を壊してしまった黒野さんにも向いていたのだ。

 俺は、そんな自分が嫌でたまらなかった。

 ただただ、自己嫌悪と虚しさだけが俺の心を支配した。

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