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非独立記念日  作者: 小野セージ
第二話
41/86

灯る光②

 続けて、黒野さんはその場にいた鞍馬の様子について語り出した。

「鞍馬は両親の血で汚れてはいたが、無傷だった。だがそれは外見上の話。君にもわかるだろうけれど、ここは田舎で隣戸が遠い。道も滅多に人が通ることはない。助けを呼ぶなら、本来は電話で警察や救急に通報するのが正解だ。しかし当時の鞍馬は電話に慣れていなかった上に凄惨な現場を見て精神的に参っていた。泣き叫んで助けを求めることしかできなかったんだろうな。鞍馬の喉は腫れ上がり、血が滲んでいたそうだよ。しかしそれでも、誰にも気付かれることがなかったんだ」

 泣けども叫べども助けは来ず、目の前で苦しみ藻掻く両親を見ていることしか出来なかったまだ小学生だった鞍馬。彼の気持ちを考えるだけで、俺の胸はぎゅうと痛んだ。

 だけど黒野さんは更に残酷な現実を突きつけてきた。

「それだけじゃない。この出来事は鞍馬の心も破壊してしまった。鞍馬はすぐに隣町の総合病院まで搬送されたが、担任の教師や顔見知りの役場職員がいくら話しかけても何の反応も示さなかった。ただ虚ろな目で前を見据えて、時々発作のように暴れ泣き叫んだ。連絡を受けた加羅里が更に翌日になって駆けつけたが、それでも鞍馬の様子は変わらなかった。先ほども言ったが、一度壊れてしまった心は簡単には元に戻らないんだ。鞍馬が日常生活を取り戻しまともな受け答えができるようになるまでは数年の時を要した」

「そんなに……」

「ああ。でもそれは、加羅里と村の人たちの惜しみない協力があってのことだった。加羅里は通っていた大学を退学して鞍馬をつきっきりで看るようになった。村の人々も次々とやってきては差し入れをしたり話しかけたりしてくれたそうだよ。鞍馬も最初こそ何に対しても無反応だったけれど、彼らの気持ちに応えるように少しずつ良くなっていった」

 その様子を思い描いて、俺は小さく息を吐いた。

「鞍馬は、強かったんですね……」

 そうだ、鞍馬は強い。加羅里さんや村の人たちに助けて貰ったとはいえ、立派に立ち直ってみせたのだ。未だにずるずると両親と妹の死を引き摺っている俺とは違う。そう思った。

 だけど、その言葉を聞いた黒野さんは目を閉じて、考え込むような表情をしてみせた。

「そうか、君はそう思うんだね」

「……え?」

 ため息と共に囁かれた言葉に、俺は黒野さんが思い描いていた結論にはたどり着けなかったのだと理解した。しかし黒野さんの言葉に含まれていたのは落胆ではないようだった。

「君の所感について俺がどうこう言う筋合いはないよ。だけど、ちょっと俺の考え方も聞いてくれるかな」

「……はい」

 素直に頷いた俺に、黒野さんは少しだけほっとした顔をして見せる。そして、小さく深呼吸をしてから、続けて語ってくれた。

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