灯る光①
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「………………」
俺は息を呑んで黒野さんの語りを聞いていた。ともすれば怪談を聞いているような気にもなるが、これは草壁家に実際に起きたことだという。ならばその「二人」が幽霊や妖怪の類いであったという話ではないはずだ。
そうであれば、その「二人」の正体は恐らく……。
「翌日、鞍馬が連絡もなく学校に登校してこなかったのを不審に思った担任教師がこの家を訪れた。玄関の鍵は閉まっていたが、庭から裏に回ってみると二階の窓が真っ赤に染まっていて、何かが起きたのは一目でわかったという。一刻を争うと判断した教師は、すぐに駐在所の警官と村役場のベテラン職員に連絡を入れてから家の中に突入した。彼が二階の寝室に入って見たものは、一目ではそれと解らないほど無惨な姿に変わり果てた草壁夫妻の遺体と部屋の隅で体を丸めて震える鞍馬だった」
ああ、やっぱり。やっぱりその「二人」は鞍馬の両親だったのだ。
俺は無意識に唇を咬んだ。心にどろどろの墨汁を垂らされたかのような気分を味わう。だが俺は黒野さんのその次の言葉に目を見張ることになる。
「これは後の解剖や捜査で解ったことだが、どうやら草壁夫妻は自発的に致死量の毒物を飲んだようだった。彼らは自殺だったんだ」
「……え?」
俺の声は自分が思った以上に訝しげだった。黒野さんもそれに気付いたことだろう。
だが彼は俺の声に眉一つ動かさずに淡々と続きを語る。
「遺書こそなかったが、夫妻には無理矢理毒を盛られたという形跡はなかった。勤め先だった研究所の発表によれば、その日草壁夫妻が共同で責任者を務めるセクションで重大な事故があり少なくない人的被害が出ていたという。そのことにショックを受け責任を感じた彼らは衝動的に毒物を飲んで自殺を図ったのだろう。そう結論付けられた。毒物は事故後の混乱に乗じて研究所から夫妻の手によって持ち出されたものだということが確認された」
「そんな。まだ小学生の……しかも溺愛していたはずの鞍馬を置いて、自殺してしまったというんですか?」
俺が横から言葉を挟むと、黒野さんは一旦そこで言葉を途切れさせた。そしてふぅと細い息を吐く。
「思いとどまってくれれば良かったんだがな。だけど一度壊れてしまった人の心は簡単には元には戻らない。その時の彼らには、鞍馬を巻き込まないという選択をするだけで精一杯だったんだろう」
「……!」
黒野さんの言葉を聞いて、背筋がぞくりと冷えた。
もしも彼らが遺される小さな鞍馬を憂えて、彼を「連れていく」ことを考えたとしたら……。今、ここに草壁鞍馬という人は存在していなかったかも知れない。それが怖くてたまらず、俺はぶるりと身震いをした。




