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非独立記念日  作者: 小野セージ
第二話
39/86

草壁一家ノ悲劇②

 その事件が起きたのは鞍馬が小学四年生になった年の秋のことだ。

 その日、鞍馬は上機嫌で家に帰ってきた。靴を脱ぎ散らかして、勢いよく居間へ飛び込んだんだ。

 どうやら担任教師に些細なことで褒められたのが嬉しかったらしい。両親は共に仕事で夜まで帰ってこないはずだったが、鞍馬ははやく嬉しかったその時の気持ちを両親に聞いて貰いたいと思ってわくわくしていた。そして、その浮かれた気分のままランドセルをソファに投げ出して、居間でテレビゲームに興じ始めた。

 だが、しばらくして鞍馬は不思議な物音に気付く。誰かが何かを引っ掻くような、ガリガリという音。それは天井の方から強くなったり弱くなったりしながら細く続いた。

 自分しかいないはずの家でそんな物音を聞いた甘えん坊の鞍馬は勿論震え上がった。怪談の類いは大の苦手だったからな。だけど同時に、以前屋根裏にネズミが侵入したことがあったのを思い出して、またネズミの仕業に違いないとも思っていた。そう思いたかった。

 だから鞍馬は恐怖のあまり泣きそうになりながらも、それがネズミの仕業であることを確かめようとゆっくりと二階へと上がっていった。それでも、いつもは気にならないギシギシという階段が軋む音が不気味に響いて聞こえた。

 二階に上がると左手に子供部屋が、右手に家族の寝室がある。

 音は寝室から聞こえていた。しかもその音と共に、床を這うように蠢くなにかの気配。そして、この世の物とも思えないしゃがれたうめき声までが聞こえ始めた。

 もう、ネズミの仕業だなんてことはあり得ない。そう解っていたはずなのに、鞍馬は逃げることも出来ずに吸い込まれるように震える手で寝室の扉を開いてしまった。


 そこで見たのはまさしく地獄だった。


 まず最初に感じたのは血と汚物と薬品の混ざった凄まじい臭いだった。部屋の中はそこにいた「二人」の体中から吹き出した血で真っ赤に染まっていた。その赤い部屋の中で「二人」は息も絶え絶えに蠢きながら体や床を爪で掻き毟っていたんだ。そのたびに彼らの指先が、ガリガリ、ガリガリ、という音を立てていた。

 鞍馬は恐怖のあまりその場で腰を抜かしてへたり込んだ。

 でもその時にはまだこの場から逃げようという気もあったんだ。力の入らない足をなんとか動かして、部屋から這い出そうとした。

 だけどその次の瞬間、鞍馬は気付いてしまった。

 耳を塞ぎたくなるような「二人」のうめき声に、凄まじい恐怖と苦痛に歪んだ「二人」の恐ろしい顔に、親愛なる「二人」の面影があることに。

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