吹き込む新風②
「……っ、なん、……?」
狼狽を隠すことも出来ずに目を見張る。
なぜ黒野さんがそんなことを知っているのだろう。鞍馬が話したのだろうか。それとも、まさか俺はそれが解ってしまうような失言をしたのだろうか。
ショックにぐるぐると廻る思考で、そんなことを考える。
しかし、黒野さんはその俺の反応に少しだけ困ったように眉根を寄せた。
「ちょっとカマをかけてみただけなんだが……」
「……ぐぅ」
その言葉に、俺は潰れたような短い悲鳴を上げるのが精一杯だった。思考が焼き切れそうなくらいに熱を持ち、くらくらとする。何が何だか解らなくなって、手で口元を覆うと今度こそぼろりと涙を零してしまう。
「あ、あー……、すまない。なにも泣かせたかったわけじゃないんだ」
涙に歪んだ視界の端で、黒野さんが珍しく焦ったように立ち上がるのが見えた。その手が宥めるように俺の肩に置かれ、ぽんぽんと優しく叩いてくれる。
「不安、なんだよな? ちゃんとあいつに求められているのかわからなくて。君にとってはあいつに求められることが全てなのに」
「……どうして?」
どうして全てお見通しなのだろうか。まだぐずぐずと鼻をすすりながら不思議そうに黒野さんを見上げれば、彼はふふと小さく笑った。
「ま、伊達に長く生きてないってことさ。君の立場や想いはなんとなく理解してるつもりだよ」
そういうものだろうか。しかし黒野さんはそれ以上の説明をする気もなさそうだ。
「そうだ、泣かせてしまったお詫びとお節介を兼ねて、二階に何があるのか教えてあげよう」
「え?」
急に思いついたように手を打った黒野さんの言葉に、俺は小さく瞠目する。それは思ってもみなかった急な申し出だった。
さっきも言った通り、知りたいという気持ちがなかったわけではない。しかし俺の揺れ動く心の天秤は、そちらよりも戸惑いに大きく振れた。
「でもそれは……」
鞍馬は二階に何があるのか、隠しておきたい様子だった。それを勝手に他人から聞いてしまうのはあまり誠実ではない気がしたのだ。
だけど黒野さんはまたにやりと笑うと、ようやく椅子に座り直しながら肩を竦める。
「言っただろう? これはお節介も兼ねてるんだ。これを君に伝えるのは俺の勝手な行動で、君がどう思ってるのかなんてのはさして重要じゃないのさ」
「はあ……」
どうやらそれは彼にとって既に決定事項らしい。やり方は強引だけれど、何故か俺はその強引さに嫌悪感は感じなかった。




