加羅里の祈り②
「い、いえ。そんな……」
加羅里さんは家族である鞍馬を訪ねてきただけだ。その加羅里さんにとって、俺は鞍馬の横にふと現れた異物でしかないはず。なのに、気遣ってそう言ってくれる彼女の声はとても柔らかい。逆に申し訳なくて、俺は身を縮こめてしまった。
その俺の様子を見て、加羅里さんはふふと小さく微笑む。そして改めて真っ直ぐに俺を見つめると、しっかりとした口調で言った。
「彬くん、鞍馬のこと、これからもよろしくお願いね」
「……えっ?」
加羅里さんの言葉に、俺は小さく戸惑いの声を発してしまった。予想外だったのだ。加羅里さんに、こんな風に真摯に鞍馬のこれからを頼まれるなんて。
「……その、俺でも……いいんですか?」
加羅里さんに向かって訊ねた俺の声は、自分で思った以上に自信がなさそうだ。
だって俺には金も職もない。その上、鞍馬とは男同士だ。恋愛をして共に暮らしたとしても、結婚はできない。公的には何の縛りも権利も保証もない関係だ。子供だって望めない。
俺が不安を感じてしまうのは、その困難をはねつけるほど鞍馬に愛されている自信がないからだ。気持ち一つでいつでも解消できてしまう関係。それが怖い。
でも加羅里さんは俺の目を覗き込むようにして大きく頷いた。
「ええ、きっとあなたじゃなきゃ駄目なんだわ」
その確信に満ちた彼女に言葉に、俺はくらくらと眩暈を覚えた。
「どうして……」
例えば俺が加羅里さんの立場であったら。五年前に亡くした妹が今も生きていたとして、彼女が急に女性の恋人を連れてきたら俺はどうするだろうか。同性愛に強い偏見がないとしても、実際にこんなにすぐ素直に認められるものだろうか。
難しいように感じる。
では加羅里さんは相当の無理をして俺の存在を呑み込もうとしているのだろうか。
だが、それも少し違う気がする。
俺が戸惑い、回らない頭で思考を巡らせているのを見て、加羅里さんは苦笑して見せた。
「私はね、ずっとあの子のことが心配だったの」
「……心配? 鞍馬のことがですか?」
「ええ、ここ数年の鞍馬はどこか自分個人の幸せを諦めてしまったようなところがあったわ。離れて暮らしている私に心配を掛けまいと思ってくれているのは分かるし、自分を育ててくれたこの村に恩返ししようと一生懸命働いているのも分かる。だけど他人のことを考えてばかりで、肝心の自分個人の幸せを求める気持ちはどこかに置いてきてしまったかのようだった。私はそれが心配だったの」
そして、加羅里さんはそっと胸に手をあてた。伏し目がちな彼女の姿は、まるで祈りを捧げるようだ。




