加羅里の祈り①
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ちか、ちか、と鋭い光が閉じた目蓋の上から視覚に干渉してくる。眩しいようなその光に、俺は僅かに目蓋を震わせて、ゆっくりと目を開けた。
「……ぅ、ん……?」
まだ少し重い頭を抱えながら上半身を起こした俺は、ぼんやりした意識で辺りを見回す。見えたのはこの半月でようやく見慣れ始めた草壁家の居間の風景だ。そういえば昨夜は居間のソファで寝たんだったな。
そんなことを思いながらソファの上で軽くのびをしていると、おもむろに食卓の方から名指しで声が掛けられた。
「あ、おはよう、彬くん」
「やあ、起きたね」
ああ、この声は加羅里さんと黒野さんだ。
それはすぐに理解できた。俺は既に食卓についているらしい二人に向かって寝ぼけたまま緩慢に頭を下げる。
「……、……、おはようございます」
そのままふらふらと頭を上げた俺。しかし開けられたカーテンの向こう、窓の外を見て、いつも起きる時間にしては太陽がずいぶんと高く昇っているのに気付いた。
「……っ!?」
すぐに、自分が酷く寝坊をしたことを理解して青ざめる。
そうだ。昨夜は考え事ばかりしていてなかなか眠れなかった。東の空がうっすらと白みだした頃になってようやく眠りにつくことができたものの、そのままいつもの時間に起きることなくかなりの時間を寝過ごしてしまったらしい。
慌ててもう一度辺りを見回す。食卓についた加羅里さんと黒野さんがこちらを見ていた。鞍馬の姿は見えない。
「鞍馬なら、もう仕事に出かけたよ。帰りはいつもと同じくらいだそうだ」
視線で俺が鞍馬を探しているのに気付いたのだろうか。黒野さんはそう言って頷いた。
その言葉に対して、何をどう言ったら良いのか迷い視線をさまよわせた俺は、しかしとにかく寝坊のことは詫びなければともう一度顔を上げた。
「……?」
しかし、そこではたと気付いた。加羅里さんたちはすぐにでも外出が出来るようにコートを着ている。しかも食卓の近くには彼らの荷物がいつでも持ち出せるようにまとめて置かれていた。それが俺には「帰り支度」に見えたのだ。
驚いて二人を見た俺の視線は、迎えるようにこちらを見ていた加羅里さんの視線とばっちり合ってしまった。思わずうろたえた俺に彼女ははにかんだように笑って見せる。
「私たち、もう少ししたらここを出て東京に帰らなくちゃならないの。急に押し掛けたのに帰るのも急で本当にごめんなさいね」




