正反対の心
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それからしばらくの間、俺たちは和やかと言っていいだろう時を過ごした。
俺が作っていた二人分の食事と加羅里さんたちが買ってきてくれた惣菜を並べた夕食。鞍馬と二人きりの時とは違って始終会話の飛び交う賑やかな食卓だった。
俺はその状況に慣れず無口になりがちだったが、皆はたびたび話題を振って俺に会話の糸口を作ってくれた。その心遣いはとても嬉しかった。
だけど、俺は心の底でどこかもやもやとしたものを感じていた。その夕食の場で交わされた言葉。そのすべてが、どこか当たり障りのない無難なものに終わったからだった。誰も率直に自分の疑問を相手にぶつけようとはしない。きっと、加羅里さんたちには俺について色々聞きたいこともあるだろうに。それに俺だって……。
俺はちらりと隣の席に座っている鞍馬を盗み見る。
多分、彼が鍵を握っているんだ。この場の空気に知らず知らずのうちに掛かってしまった錠の鍵を。
鞍馬は優しい。だから俺は、彼が自分の立場や気持ちを守るためだけにそうしているのだとは思えなかった。きっと、ここにいる誰か、もしくは全員が傷つくことがないようにとの思惑なのだと思う。
しかし俺は、加羅里さんたちともっと率直に話し合わなくてはならないと思っていた。もし仮に自分が傷つくことがあったとしても、きちんと伝えなくてはならないことがあるし、逆に俺自身が知らなければならないこともあるのだろうと思うのだ。
その一方で、正直に言えば確かに俺は恐れていた。卑怯で弱い俺は、自分が傷つくのも、他人を傷つけるのも怖くてたまらない。目隠しをされたままで優しい世界にずっと浸っていられたらどれだけ楽で幸せなことなのだろう。
そんな相反する気持ちを抱え続けたまま、時間は驚くほどに早く過ぎていった。
その夜は、加羅里さんに鞍馬の寝室のベッドを使って貰ったため、俺たち男三人は居間のソファや床に雑魚寝をすることになった。
俺は鞍馬にソファで寝るように促された。黒野さんもそれが当然のように動いてくれた。黒野さんと鞍馬は居間の床に各々布団を敷いて寝るようだ。薄い布団は固いフローリングから身体を守るには物足りないし、広くないスペースに男二人が寝転がるのだからかなり窮屈そうだった。
だけど俺は二人が下したその決定に異議を唱えられなかった。それが二人の厚意であることが解っていたからだ。けれど本心では、自分がお荷物になったようで酷く心苦しかった。
いや、事実として俺は鞍馬の重荷になっている。俺は金銭的にも精神的にも自立出来ていない。鞍馬がいなければまた路頭に迷うしかない半端者だ。それなのに鞍馬の横で対等でいたいなどというのは、ただのわがままでしかないのだろう。
俺は二人に「ありがとう」とおざなりの感謝の言葉を述べてソファで毛布にくるまった。毛布は暖かく、ソファはそれなりに柔らかかった。しかし俺はとりとめもないことばかりを考えて、夜半を過ぎても眠れずに何度も何度も寝返りを繰り返していた。




