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非独立記念日  作者: 小野セージ
第二話
30/86

加羅里と黒野③

「はは、まさか。そんな中途半端な覚悟なら、わざわざ婚約なんてしたりしないさ」

「どうだか。口では何とでも言えるよな」

「信用ないなぁ。本当のことを言えば、お前だってかなり俺好みではあるんだぞ。俺がお前に手を出そうとしたことがあったか?」

「……そんなことがあったら何重もの意味でお前をぶん殴って、姉さんとの婚約を即解消させてるよ」

「ほらな?」

「そのくらいでしたり顔するな! 当たり前のことだろ!」

 そうやって侃々諤々(かんかんがくがく)、好き放題に言い合う二人は一見すると仲が悪いように見える。しかし打てば響くようなそのやり取りは、彼らなりの親愛の証のようでもあった。

 実の姉弟である加羅里さんと鞍馬、婚約者同士である黒野さんと加羅里さんの間に信頼関係があるのは解る。しかし鞍馬と黒野さんの間にも、こんな風に言い合いの出来るある種の絆があることに、俺は少しだけ羨ましさと疎外感を感じていた。

 俺には鞍馬との間にだってこんな近しさはないのに。

 そのことに俺が暗たんたる気持ちになりかけた、その時だった。

 加羅里さんが軽く手を叩いて皆の注意を引いた。

「まあまあ、落ち着いて」

 彼女は舌戦がヒートアップしかけた鞍馬と黒野さんの間に自然に入って行ってそう言うと、手にしていたビニールの袋を持ち出して皆の前に掲げて見せた。ぱんぱんに中身の詰まったその袋には「惣菜のナカムラ」という字と共にコック帽を被った牛のイラストが印刷されている。

「まずはご飯にしましょうよ。貴方たちも、夕飯まだなんでしょう?」

 確かに腹は減っていた。俺は思わず鞍馬や黒野さんと顔を見合わせた。彼らもまたお互いに顔を見合わせている。

 しかし、そのせいで一瞬だけ出来た静けさの中、空腹を思い出した俺の腹がきゅるると切なげに鳴いた。余りのタイミングに自分の頬がかぁと熱くなるのが解る。

「ふふ、ほらみんなお腹空いてるのよ。ご飯にしましょ?」

 その俺を見て、加羅里さんは皆に食卓に着くように促した。その目には惜しみのない慈愛が籠もっている。

 俺は真っ赤になった頬を覆うように手の甲で口元を隠すと、しみじみと思った。

 どうもこの人には敵いそうもないな、と。

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