開けられた扉①
▽
しかし、その時だった。
突然、がらりと大きな音を立てて廊下へ続く引き戸が勢いよく開け放たれたのだ。
驚いた俺が思わず顔を上げると、引き戸の向こうからひと組の男女が現れた。
「……え?」
「……あ」
「わっ!?」
「ほう……?」
その場に会した四人の口からそれぞれ声が飛び出した。そしてその後、痛いくらいの沈黙が場に落ちる。
俺は高ぶっていた気持ちを咄嗟にどうすることも出来ず未だにぼろぼろ零れる涙をぐいと強引に拭うと、体を預けていた鞍馬からなんとか一歩だけ離れた。鞍馬は頭が痛いとでもいうように、前髪をかきあげて渋い顔をしている。
突然の登場を果たした男女。ふんわりとしたショートカットの髪が似合う女性の方は驚いた様子で、その手を口に当て呆然と俺たちを見つめていた。それに対して黒縁眼鏡をかけた背が高く大人っぽい雰囲気を纏った男性の方は、何故だろうかどこか楽しそうな、興味深そうな視線でもって俺たちの様子を窺っているようだ。
しばらくの間、俺たちはお互いに探り合うように視線を交わしていた。しかし、それでは埒が開かないと理解しはじめた頃、乱入してきた二人のうち女性の方がこほんと軽い咳払いをして皆の注意を引いた。
「ごめんなさいね、邪魔するつもりはなかったのだけど……。えーと、私たちちょっと外に出てた方がいいかしら?」
「えっ……? その……」
多分、女性から見た俺たちはただ抱き合っているように見えたのだろう。遠慮がちにそう言って、俺たちから視線を逸らす彼女。
俺は困って鞍馬に訊ねるような視線を送る。何せ、俺にはこの二人が誰なのかも解らないのだ。鞍馬が何も言わないということは不審者ではないのだろうが。
相変わらず表情は渋いままだったが、それでも鞍馬は冷静に二人のうち女性の方に向かって諭すような声音で話しかけた。
「はぁ……。こっちに来るなら、事前に連絡くらい入れてくれよ……」
「ご、ごめんね。出発してから連絡してないのに気付いたんだけれど、仕事中は私用の電話したら怒られるだろうと思って……」
「全く、しっかりしてるようでどっか抜けてるんだよな……」
「うぅ……。で、でも貴方だって家に一緒に住んでる子がいるなんて教えてくれなかったじゃない」
「それは……まあ、そうだけど……」
言い合いの末、唇を軽く尖らせるようにして不満を示した彼女に、鞍馬は珍しく言葉に窮している様子だった。
鞍馬は俺とは違ってかなり社交的な性格に分類される人間に違いない。休日、村で唯一のスーパーに一緒に買い出しに行くと、彼はそこで出会う様々な人に率先して声を掛けていたし、逆に気安く声を掛けられもしていた。
だけど、鞍馬と村の人たちの親しさはその中に礼儀のあるものであったのに対して、この女性と鞍馬との会話には、なんというかあまり遠慮がない。それは他人とは一線を超えた親しさのような気がした。
(この人は鞍馬とどういう関係なんだろうか。俺たちよりも少し年上に見えるけど、年上の女性に憧れるっていうのはよくあることだし、もしかして……)




