望む愛のカタチ②
キッチンの様子を見に行こうとしたのだろうか。鞍馬は食卓の向こうへ行こうとして、ソファに座ったままぐるぐると考え込んでいた俺に背を向けた。
それは何ということもない日常の動作であって、何かの思惑を反映したものではなかったはずだ。だけどその背中を見た瞬間に、俺は咄嗟に「置いて行かれる」と感じ、思考が真っ白になる。
「……っ、鞍馬!」
気付けば、俺は挑みかかるように鞍馬の背に縋り付いていた。
「彬……?」
驚いたように鞍馬がこちらを振り向こうとする。俺はその彼の頬に手を差し伸べ強引に引き寄せると、首を傾げるように角度をつけて自分の唇を鞍馬のそれに深く重ねた。
「んっ!?」
目を見張る鞍馬の唇に舌をねじ込み、その口内を探ろうとする俺。しかし自分から仕掛けることに慣れないその舌の動きは酷くたどたどしい。
俺は、恥ずかしさのあまり真っ赤になっていただろう。今までリードされるのを当然のように受け入れてきた俺には、鞍馬を上手くリードして気を引くような技量はなかったのだ。
意気消沈した俺が動きの鈍った舌をおずおずと引くと、絡んでいた舌の先から唾液が銀色の糸のように俺たちを繋ぎ、そしてすぐに儚く切れ落ちた。
それを見て、俺は軽い息切れと共にぼんやりとした絶望を感じていた。
意識的に視線を落としていたから俺には鞍馬の表情は見えなかった。怖かった。もしかしたら呆れられてしまったんじゃないかと思った。
俺ははくはくと唇をわななかせながら、何かを言わなくてはと考えていた。
だというのになかなか上手い言葉は出てこなくて。焦りと自己嫌悪がつのり、泣きたくなる。
「ごめん……」
ようやく俺の口から出たのは湿り気を帯びた謝罪の声だった。
ああ、こんなの。恥の上塗りじゃないか。きっと、俺はさらに深く呆れられてしまったに違いない。風に吹かれた塵のように彼の目の前から跡形もなく消え去ってしまいたかった。
俺はじっと自分の爪先を見つめながら小さくすすりあげる。
「彬……」
鞍馬が俺を呼ぶ声は優しい。でもどこか困ったような戸惑ったような感情も乗せられているように思えた。その彼の口から次にどんな言葉が発せられるのかが恐ろしくて、ぎゅっと小さく身を竦める。
その怯えのような感情を悟られたのだろうか。鞍馬がはっと息を呑む気配が伝わる。視界の端に彼の手がぎゅっと握られ、その後力なく脱力するのが見えた。
その動作に鞍馬の諦めの感情が見て取れた気がして、俺は強く目を瞑る。泣いてはいけないと思うのに、次から次へと涙が滲んで止まらなかった。
「………………」
鞍馬は何も言わなかった。ただ、泣くことしかできない俺を哀れに思ったのだろう。その手を優しく俺の肩に回して、胸に深く抱きしめてくれた。
鞍馬の抱擁は優しく、温かかった。だけどその優しさも暖かさも、本来は俺のためのものではない。俺にはどうしてもそう感じられて仕方がなかった。




