Alone in the Beautiful World.
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俺のフルネームは御陵彬。年は二十五歳。とある地方都市のごく平凡な家庭に生まれた。
幼いうちから人付き合いが苦手だった俺は、学校でも友達をろくに作らず、家族とも一定の距離を取って接することを良しとする、そんな子供だった。その俺を家族は心配してくれていたが、その心配すらもその時の俺にとっては過干渉に思えた。地元を離れ東京の大学に進学したのも、その家族の過干渉から逃れるためだった。
だけど五年前、俺はその家族を一度に亡くした。両親と高校生だった妹は、夏休み中の俺を訪ねようと東京へ向かう途中、交通事故に巻き込まれた。俺は一人遺されてしまった。
親族が無かったわけじゃなかった。しかし彼らと両親とは折り合いが悪かったらしく、俺が知る限りずっと絶縁状態だった。だから、俺は家族の葬儀も必要な手続きも何もかもを一人でこなさなければならなかった。
それでもやるべきことがある間はしっかりと自分を持っていられた。けれど、それらが一段落した時、俺は急に自分が一人であることに気付いたんだ。
一人でいるのには慣れていたし、むしろ一人でいることの方が楽だとすら思っていた。だけど家族を亡くして得た孤独は想像以上だった。
耐えがたい恐怖に苛まれた。まるでこの世界から自分の居場所だけが消えてしまったような感覚。いっそ家族の後を追って死のうかと思ったこともあったが、その踏ん切りはつかなかった。
結局、俺は自分が生きてきたその場から離れることにした。ここに自分の居場所はないのだから、探しにいこうと思ったんだ。
まともな精神状態じゃないのは自分でも解っていた。だけど、俺にはそれしかこれから先も生きていくための術が見出せなかった。
それから、俺は色々な場所を転々とした。都会でも、田舎でも良かった。自分を受け入れてくれるものを探して流浪した。
だけど、それはなかなか見つからなかった。腰を落ち着けられる場所を見つけられずに五年もの歳月を過ごしてしまった。手元にあった幾ばくかの資産も底を尽き、最後の千円札を握りしめてやってきたのがこのA村だった。
俺にはもう村を出る金もない。湖の前で、俺は何度も自分に「死ぬ気なのか」と問いかけた。居場所も所持金もない。死ぬしかない。
そう思いながらも、俺は一歩踏み出せなかった。
そうやってぼんやりと湖を見ていたら日が暮れて、月が出た。月の光を反射する湖は綺麗だと思った。思えば、今まで流浪の中で見てきたこの世界はどこをとっても美しかった。だけどその中に自分の居場所だけはとうとう見出せなかった。




