出来うること全て②
何度それを繰り返しただろうか。ペットボトルの中身は既に半分ほどに減っていた。
その頃になって、彬は急に思いついたように自分の中に差し込まれた俺の舌をキツく噛んでみせる。
「……ッ!」
鋭い痛みが走って、俺は一瞬顔を歪めた。だけど、俺はそれでも止まらずに彬の舌に自分の傷ついた舌を擦り付ける。俺の血を彬に味わわせるように。
「ふぅ……っ」
この行為と血の味に、彬は随分と興奮している様子だった。しかし、それは俺も同じだ。ふうふうと大きく不自由な息を吐きながら抵抗しようと俺の下で艶めかしく全身をくねらせる彬を抑えつける俺は、酷く興奮していた。
しかし俺はその蹂躙するような口移しに満足すると、最後に彬の唇の端にこぼれたスポーツドリンクを軽い音を立てて舐め取ってからゆっくりとその上半身を起こした。
彬は未だ馬乗りになったままの俺の体の下で為す術もなくふるふると震えていた。きつく瞑られた目蓋を彩る睫毛も細かく震えている。
ふと「殴られるかもしれないな」と思った。出会ったばかりの人間、しかも好意を抱いているわけでもない男にこんな風に扱われたら、怒りを感じるのが普通だろう。
だが、彬は俺に手を上げることはなく、その代わりにようやく自由になった両腕で目の前にバツを描くようにして顔を隠す。
「……なんなんだ」
低く紡がれる声。しかしその声に怒りや嫌悪の感情はないように感じる。
「なんで、こんなことをするんだ……?」
「………………」
彬の問いかけに、俺は即答できなかった。
勿論、俺は絶食を続ける彬に対して自分に出来ることをしただけだ。この行為は彬を助けるためのもので、それ以上でもそれ以下でもない。だけどそれを直接彬に伝えてしまうのはどうしてか躊躇われた。
迷ううちに、俺は暗闇の中でも解るくらい赤く染まった彬の耳や首筋を見ていた。そしてその真っ赤な耳朶に指先でそっと触れる。熱かった。
「……ンッ」
彬はびくりと肩を震わせると、顔を隠すクロスした腕の隙間からこちらの様子を伺うようにちらりと瞳を覗かせる。その瞳には僅かにだが、隠しきれない甘い色が宿っていた。
それを見て俺は思わず息を呑んだ。
同時に、俺は何となくこの彬という男を理解した気がした。
(ああ、なるほど……)
俺は唇の端を歪めるように笑ってから、その彬に向かって無意識のうちに小さく呟く。
「……あんたのことが、好きだからだよ」
口を突いて出たのはそんな言葉だった。さっきまでは心にも無かったその言葉。だが俺に後悔はなかった。




