焦燥
▽
時は瞬く間に過ぎた。
俺は食卓の椅子に座りながら、窓際のソファに大人しく座っている彬を見ていた。
「………………」
夕方の西日を少し眩しそうに受け止める彬は、穏やかといってもいい表情をしている。だがよく見れば、この僅か三日の間でだいぶやつれた印象になっていた。
それもそのはずだ。彬はこの三日、何も飲み食いしていないのだから。
家にやってきたその日、彬は夕食を食べることを拒否した。戸惑う俺に激昂するでも消沈するでもなく、ただ淡々と「いらない」とだけ告げてそのままソファで微睡み始めた彬。その日は精一杯良い方向に考えて、疲れていて眠いのだろうと来客用にしまい込んであった布団を貸してゆっくりと寝かせることを優先した。
しかし、翌日以降も彬は食事を拒否し続けた。それどころか水分を摂ることも一切しなかった。ソファの上で微睡んだり、窓の外をじっと見つめることに始終して、会話をすることも殆どなかった。
俺は毎食のように彬の分も食事を作って食べるように促した。だが、彬はそれに見向きもしない。それならば飲み物だけでもとスポーツドリンクのペットボトルを渡してもみた。しかし、それもしばらく手で弄んでから窓の桟に立てかけるように置いただけで飲もうとはしなかった。
俺は焦っていた。三日を経て、交流が出来るどころか拒絶されるばかり。人が飲まず食わずで生きていられるのは何日くらいだろうか。今日を乗り越えたとしても、このまま気が変わらなければ、早晩彬は力尽きてしまうだろう。
俺の脳裏でまたちかちかと過去の出来事がフラッシュバックしそうになる。
「……彬」
俺が名前を呼ぶと、暖かい西日を浴びながらうとうととしていたらしい彬がぴくりと反応して視線をこちらに送った。乾いた瞳が、虚ろに俺を見る。それがあまりに痛々しくて、俺は息を詰めた。
おやっさんには中途半端にするなと言われた。俺は応と答えた。
明日からはまた役場の仕事が始まる。彬は警察に保護されるはずだ。そうすれば俺と彬の繋がりは切れてしまう。俺にはその後の彬がどうなったのかを知る術はないだろう。
もし、今の状態で別れたとして、俺は皆に胸を張れるのだろうか。出来うる全てを尽くしたと言えるのだろうか。
そして改めて決意する。もしも彬が今夜もこの調子だったなら。
(俺は、自分に出来うること全てを尽くそう……)
その夜、やはり彬は俺の用意した食事も飲み物も口にすることはなかった。




