拒絶の言葉
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仕事で使っている公用車もいい加減ぼろいが、それにも増しておんぼろの自家用車に乗り換えて、俺は自宅に帰ってきていた。
勿論、彬も一緒だ。彬は俺の家に来ることに同意したわけではなかったが、特段抵抗することもなかった。流されるように俺の運転する車の助手席に座り、家につけば俺に促されるまま家に入った。
俺の自宅は築三十年の年季の入った一軒家だ。二階建て3LDKの家は一人暮らしをするには少し広すぎるが、生まれた時からずっと住んできた家で思い入れがある。
「ここが居間と食卓。向こうが台所。風呂とトイレと洗面台はあっち。向こうの小さめの部屋が俺の部屋だ。二階もあるけど、今は使ってなくて掃除も行き届いてないから行かない方がいいぞ」
俺は荷物を置いて一息つくと、そう彬に家の中を案内した。彬は相変わらず聞いているのかいないのかわからないぼんやりとした様子で立ち尽くしていた。
その彬の様子を見て、俺はさてと考える。彬の居場所はどうしようか。
といっても、長時間目を離すことは出来ないから候補は絞られる。俺の部屋か、それともこの食卓を兼ねた居間かだろうか。だけど、俺の部屋はそれほど広くない。元々俺の父親が書斎にしていたこぢんまりとした部屋に無理矢理ベッドを入れて自室にしたのだから仕方が無い。だがそれに対して居間なら、一人は窓際のソファで、一人は床に布団を敷いて寝れば二人で生活できなくはなかった。何より奥まった台所で食事の支度をしていても繋がった居間の様子はある程度把握できる。ならば決まりだ。
「すまないな。一人には出来ないから、彬にはこの居間で過ごしてもらうけど、何か不自由があったら言ってくれればなるべく配慮はするから」
そう自分の居場所を指定された彬は、ちいさく辺りを見回してから、すとんと窓際のソファに座って落ち着いた。特に異論はないようだ。
今のところ、全てが順調だった。反抗も抵抗もなく、全てが上手くいった。
だから、俺はやっぱり少しばかり調子に乗っていたのかもしれない。
「なあ、今から夕食作るけど、彬は何か食べたいものあるか? まあ、そんなに豊富に食材があるわけじゃないけど、基本的なものならいくらかは――」
少し時間は遅かったが俺自身腹が減っていたこともあり、彬も同じはずだと思ってそう訊ねた。しかし。
「いらない」
久しぶりに聞いた彬の声は、明確な拒絶だった。




