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非独立記念日  作者: 小野セージ
第一話
12/86

三〇三会議室④

「フワ……ハ、ハ、ハーックション!!」

 一瞬、一体何が起こったのか解らなかった。しかし、続けてズズーッと鼻水をすする盛大な音がして気付く。どうやらおやっさんが規格外のくしゃみを一発、放ったようだった。

 場に停滞した重い空気を一気に吹き飛ばしたそのくしゃみ。その場にいた面々から、調子が狂ったような、それともほっとしたような、複雑な息が漏れた。

 そういえば彬のことで頭が一杯になっていたが、おやっさんや近藤さん、力石さんはまだ湖に入った服のまま、着替えていないのを思い出す。

「こいつのことは俺が見てるから、おやっさんたちは着替えてこいよ」

 俺が顔を上げていつの間にか俺の背後に来ていたおやっさんにそう告げると、おやっさんはまた鼻をすすり、自分で自分の二の腕をさすりながら素直に頷いた。

「おう、そうだな。近藤、力石、行こうか」

 一方、近藤さんと力石さんはといえば、彬のことを俺一人に任せるのが不安だったのだろうか。少しだけ迷うような表情をして顔を見合わせる。しかし、おやっさんはにやりと笑ってその二人の肩を叩いた。

「なに、大丈夫だよ。この若いのは草壁には幾らか懐いてるみたいだしナァ、後は若い二人の成り行きに任せようや」

「おやっさん、言い方……」

「おっと悪い悪い」

 下世話な言い方に俺が呆れた声を上げると、おやっさんはからからとまるで反省していない様子で笑う。そして今度は、ぼんやりと前方を見つめながら俺たちの話に聞き入っていた彬にその笑みを向けた。

「まあでも、お前さんもな。もしもどうしてそう思うのか解らないとしても、気を許せると思った相手がいたら甘えてみるのも一つの手だよ。なに、この草壁の性格はオレが折り紙を付けて保証するからサ」

 そう言うと、おやっさんは一人で納得したように頷く。そして今度は近藤さんと力石さんを振り返るとせっつくように手招きした。

「おお、寒い寒い。おい、二人とも。早く着替えにいくぞ!」

 近藤さんと力石さんはまだ少し不安そうだったが、おやっさんは彼らを強引に引き連れて会議室を出て行った。ばたんと鉄扉が閉まると、俺と彬しかいない会議室は急に静かになった気がした。でも、おやっさんのおかげなのか、さっきの痛いような重苦しい静けさとはまた違う気がした。

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