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非独立記念日  作者: 小野セージ
第一話
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三〇三会議室②

「……おやっさん、俺にも話させてもらっていいか?」

 少し考えた末に、俺はおやっさんにそう申し出ていた。何かいい案があるわけではなかったのだが、この男と話がしてみたかった。

 おやっさんは少しだけ判断に迷ったようだった。しかし、今のままでは埒が開かないのも確かだと思ったのだろうか。「あまり興奮させるなよ」とだけ言って体を引き、俺を中に入れてくれた。

 俺は一度深呼吸をしてから、努めて平坦な足取りで冷静を装いながら男に近づいていく。長机を挟んで男のすぐ目の前の椅子を斜めに引き横座りになるように座れば、男は手元に落としていた視線をすいと上げる。なんとか視線を合わせることが出来た。

 その瞬間、俺はおやと思う。近くにいた近藤さんと力石さんが驚いたように息を呑むのが解ったからだ。どうやら彼と視線を合わせることができたのは俺が初めてのようだ。何故だかは解らないし、ただの偶然かもしれない。だが、俺は少しだけ光明を見出した気分で男に声をかけた。

「なあ、寒くないか? 悪いようにはしないから、タオルくらい受け取ってくれよ」

「………………」

 返事はない。だが、視線は逸らされなかった。じっと伺うような目で見てくる。俺はその視線をひしひしと感じながら、目の前に置かれたタオルをゆっくりと取ると男の目の前で広げてみせた。

「ほら、暖かいぞ」

 俺はそう言って、半分無理矢理に男の頭の上からタオルを被せる。一瞬、少し強引に行きすぎたかと思ったけれど、彼は上目遣いに少し渋い顔をして見せたきりで、特に何も言わずにそれを受け入れた。

 本当を言えばきちんと着替えさせるのが一番なのだろうけれど、今のところはこれで良しとしよう。

「じゃあ、まずは自己紹介からしようか。俺は鞍馬。草壁鞍馬っていうんだ。……あんたの名前は?」

 男がタオルを拒否しなかったのに気をよくして、俺はもう一歩踏み込んでみた。

 何も、確実な返答を期待して訊いたわけじゃない。タオルの件は声に出して拒否しなかったというだけで、俺たちの間には会話があったわけでも確かな意思疎通ができていたわけでもなかった。だから、俺にはこの質問に彼が答えてくれるという自信はなかった。

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