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初恋

 

 ダンテがティルマン医師の元で生活するようになってから一年が経った。入学試験の結果、彼に最初に割り振られたクラスは適性年齢よりも二つ上のクラスだった。最初は周囲にからかわれたりもしたが、ひと月後のテストの結果が廊下に張り出されると、そのあとは誰も何も言わなくなっていた。三度目のテストの結果が出たあと、彼は学校側から新しいクラスへ移るようにいわれた。今度は四つ上のクラスだった。そこでの彼の成績は中位という結果が出た。学校側はそれが彼の適正クラスだと判断した。


「ダンテ、おはよう」

「おはよう、マグノリア」

 毎朝誰よりも早く登校し教室で勉強するダンテに一番に朝の挨拶をするのは、マグノリアという14歳の少女だった。間もなく11歳になろうとするダンテと比べてかなり大人びた人物だ。

「ダンテ、おはよう」

「トーマス、おはよう」

 新しいクラスの人たちは前にいたクラスの人たちよりも、精神的に余裕のある人間が多かった。ダンテはクラスメイトのその部分にとても助けられていた。

「トーマス、ごめんよ。このタービンの仕組みのところでわからないところがあるんだけど」

「ああ、いいよ」

 ダンテの設問にトーマスと呼ばれた少年は快く丁寧に答えた。彼もマグノリアと同じ14歳で、ダンテと比べると体格のしっかりした少年だった。一生懸命頑張るダンテの姿に心打たれたクラスメイトは彼を弟のように可愛がっていた。





 一年経ってもダンテは病院での手伝いを続けていた。それがベアトリーチェに会うためのものにすぎない事も、変わらなかった。

「新しいクラスはどう?」

「みんなについていくのが精いっぱいで、とても大変だよ」

 口から出た言葉とは反対にダンテの顔は笑っていた。

「……よかった」

 ダンテの表情を見てベアトリーチェも嬉しそうに笑った。

「そうだ、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ」

「まぁ、なにかしら?」

 ベアトリーチェは目を輝かせながらダンテを見た。ダンテは自分の鞄の中から小さなガラスの瓶を取り出した。

「はい。マグノリアっていう女の子から分けてもらったんだ。香水だよ。彼女の憧れている遠縁のおじさんから貰ったんだって。彼女とってもいい人でさ」

「いらない」

「え?」

 先ほどまでのベアトリーチェとは人が変わってしまったかのように、彼女は突然拒絶の表情を浮かべてそっぽを向いてしまった。

「どうしたの?ベアトリーチェ……」

 ダンテは態度が変わってしまった少女に困惑するばかりだった。

「……私、ダンテが他の女の子の話をするのが、とっても嫌なの」

「……どうして?」

「だってダンテったら、学校に通うようになってから、どんどん素敵になっていくんですもの。私、そのことが心配で」

 ダンテは胸が熱くなった。ここのところ、ベアトリーチェの感情表現に対して彼ははっきりとしたものを感じるようになっていた。

「ねぇ、ダンテ。こっちに来て、手を握って?」

「うん」

 ベアトリーチェの夢だけではなく、彼女の望むことは何でもかなえてやりたい。最近のダンテはそう考えるようになっていた。

「ダンテ、他に素敵な女の子が現れても、私のこと好きでいてくれる?」

「……うん」

「本当?嬉しい!!」

 少年は恋をしていた。その相手は外の世界には決していない、天使のような純粋さをもつベアトリーチェという名前の少女だった。


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