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聖女と嘘は君のせい  作者: 真朱
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05. 闇の聖女は癒せない


抵抗はしたつもりなのだが、『歯向かったら闇属性をバラされるかも』と思うと強くも出られず、気付いたときには、ルコルは何故だか『正式な聖女ではないが、それっぽいモノ』として王宮で保護されていた。


それもこれも、『王宮筆頭魔導士』という権力を笠に着た、小悪党の暗躍のせいである。


傷も病気も治療できない聖女なんか、いても何の役にもたたないというのに、エフェは何故、それでもルコルを聖女に仕立て上げようとするのか。誰がどう得をするというのか。

国民の皆様だってがっかりするに決まっているし、期待が外れた反動で『憎さ百倍』を募らせてくるかもしれず、ルコルは戦々恐々とするしかない。


更に、ただ単に『エセ』なだけならまだしも、ルコルは禁忌の闇属性。

発覚の可能性を少しでも下げるために、田舎で一人密やかに、目立たないように生きてきたというのに。全力で人目を避けてきた今日までの努力が、嘘の大看板のおかげで、台無しどころのお話では済まない。


「それもこれも、エフェさんが権力にものを言わせるから…」


ルコルが思わず恨みつらみをこめた呟きを零すと、

「はいはい。その権力者ですよ」

と、のんきに返事が返ってきた。

エフェは、ルコルに食事を運んできたようである。


ここは、王宮のほど近くに建てられた王宮関係者宿舎の一室。

その中でも最上階、浴室からキッチンまで完備された、幹部専用個室の一つにあたる、王宮筆頭魔導士サマの根城である。


ルコルはここに軟禁されていた。

室内での行動は何の制限もされていないとは言え、ドアも窓も開かないのだから、完全に軟禁である。


エフェは自由に出入りしているが、他の誰も入っては来ないし、ルコルも出ることができない。鍵はかかっていなくても、ドアが重たすぎて開かないのだ。

風魔法で、部分的に強烈な風圧をかけているんだそうだ。


「わたしどうせ何も癒せませんし、ここにいてもできることもないですし、

 田舎に引っ込ませていただきたいんですが」


エフェから渡された食事を有難く頂きつつ、ルコルはエフェにお願いしてみる。


部屋から出してはもらえないが、生活上の不自由はないし、入浴時や就寝時などはエフェは退室してくれる(エフェは、王宮内に筆頭魔導士の執務室があるとかで、そちらで寝ている)ので、一応配慮はしてくれているのだと思う。


でも、この部屋の中だけでは時間を持て余すだけだし、精神的にキツイ。

正直、後ろ暗い身の上としては、生きた心地がしない。


「ダメですよ。どの国だって聖女に類する存在は欲しいものなんですよ?

 田舎で一人ぼ~っとなんてしてたら、攫われちゃうじゃないですか。」


ちょっとしたお願いくらいの気持ちで言ってみたことだったのに、エフェの返答は思っていたよりも重苦しいもので、ルコルは絶望の色を滲ませた。


ニセモノなのに。

エセ以外の何者でもないのに。

『聖女のようなモノ』として扱われた時点でもう、ルコルの自由は消え失せたということなのか。


それにしても、聖女が国から手厚く保護されるのには色んな意味があるらしい。いまルコルがこうして閉じ込められているのも、信用できない人間が不用意に接触してくるのを防ぐ意味もあるのかもしれず、軟禁扱いしてしまったことを、ちょっと申し訳なく思ったりもする。


「八つ当たりしてすみませんでしたエフェさん…

 でも、ずっとここに籠っているだけじゃなくて、外に出たいです。

 畑を耕すとか、木の実を採るとかでいいんです。何かさせて貰えませんか?」


遠慮しつつも懸命に頼み込むルコルに、エフェはふむと少し考えて口を開く。


「私がご一緒させていただくことが条件にはなりますが、

 ルコルさんにぴったりのお仕事がありますよ。」

「ほんとですか!是非!!」


ここから出られるというだけで嬉しくなってしまい、ルコルは碌に内容も確認せずに飛びつく。



そして、エフェに連れられて出かけた先は、貴族のものと思しき、立派なお屋敷だった。



「そちらが聖女さまですか!?」

「!!?」


出迎えてくれた初老の男性が、ルコルを見るなり縋るような目を向けたため、ルコルは固まった。


「ちっ…ちがっ…」

動揺のあまり言葉が続かないルコルの横で、エフェは飄々としている。


「いえ、彼女は聖女ではないんです。

 でも、もしかしたらお役に立てるかもしれないと思い、お話を伺いに参りました」


エフェはちゃんと『ルコルは聖女ではない』と明言してはくれたものの、聖女の領域を思わせる何某かを滲ませてもいた。


(聖女もどきとしての仕事があるってことだったのね……)


エセ聖女に仕立て上げた張本人を疑うことなく、素直にホイホイ付いて来てしまった自分の世間知らずっぷりを嘆き、遠い目をしているルコルをそのままに、執事だという初老の男性は事情を話しはじめる。


「数か月ほど前から、主人が体の痛みを訴えるようになりました。

 何人かの医師に診てもらいましたが、原因不明のまま回復の兆しはなく、

 ここ一月ほどは、起き上がることもままならなくなってきました。」


(だから、わたしは癒しの魔法を使えないんだってば~…)


エセ聖女のルコルにできるのは、体に害が及ばないくらいの微量の毒により、痛覚を麻痺させて痛みを感じにくくさせることのみ。

緩和ケアをお望みだと言うのならお役に立てないこともないが、痛みを紛らわせたところで治りはしないのだから、一刻も早く名医を探すべきではなかろうか。


それに、聖女風に魔法を使ってしまったら、そのままエセ聖女から逃れられなくなるに決まっているので、全力でご遠慮願いたいのがルコルの本音である。


(なんでこんなことに…)


執事に案内され、ご主人の居室に向かいながら、ルコルは恨みがましい視線をエフェに送り続けるが、当の王宮筆頭魔導士サマは気にした様子もなく、ルコルが逃げださないように静かに退路を塞ぐのだった。




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