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聖女と嘘は君のせい  作者: 真朱
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17. 迫害との向き合い方


占い師は、手足を拘束された状態で取り調べ室にいた。うつむいたまま微動だにせず、黙秘し続けているのだという。


エフェは占い師に歩み寄ると、ゆったりと話し出した。


「申し遅れましたが、私、王宮筆頭魔導士を務めております、エフェと申します。

 この国の、魔法関連の総責任者です。

 魔法が関わることでしたら、私以上に詳しい人間は、この国にはおりません。

 王族が知らないことすら知っています。」


ぴくりと、占い師が反応を見せる。


「きちんと取り調べを受け、犯した罪を償うのであれば、

 あなたの質問にお答えしないこともないですが、いかがいたします?」


占い師は、ゆっくりと顔をあげる。

その目には困惑と、かすかな希望のようなものが浮かんでいるように思えた。


「…あんた若そうだよな… 筆頭になったの最近なんじゃないか?

 筆頭になる前のことでもわかるのか?」

占い師は、値踏みするかのようにエフェを見据えている。


「ええ。代々筆頭が受け継いでいる膨大な極秘資料がありますので、

 私自身は知らなくても、調べることはできるかと。

 ただし、機密事項は魔法契約を結んでいただかなければ話せません。」


占い師は少しだけ考え、すぐに了承した。

「わかった。取り調べに応じるし罰も受ける。口外もしない。だから教えて欲しい」

「はい。何を知りたいのですか?」

「闇属性の保有が確認された人間はどうなるのか。

 生きているのか死んでいるのか。生きているならどうしているのか。

 会うことはできるのか、だ。」


やはり占い師が知りたいのは、五年くらい前に確認されたという、闇属性の少女のことに間違いないようだ。


エフェは魔法契約後に話すことを約束し、手続きを行う。

魔法契約を行うと、洩らそうとした瞬間に術が発動するんだそうで、本人の心づもりにより術の作用は異なり、最悪は命を奪われるという。

それを聞いても、占い師は抵抗することもなく、黙って受け入れていた。


「あなたが知りたいのは、五年前に東の神殿の聖判定で、

 闇属性の保有が確認された少女のことでよろしいですか?」


占い師は息をのみ、前のめりになった。

「そうだ!妹なんだ!!殺されたのか!?」

「何もしていない方に、そんなことしませんよ。ちゃんと生きています。」

「!」


(生きてるんだ…)


秘密裏に始末されているんじゃないかと疑ったことのあるルコルは、ほっとしながらも、正直少し意外に感じた。

兄だという占い師にまでも完璧に隠されていたのだから、良い理由ではないんだろうなと思っていたのだ。


「場所も名前も明かせませんが、闇属性の人間が暮らす国があります。

 妹さんは、その国に迎え入れられ、穏やかに生活していますよ。」


「…闇属性が暮らす国…?」

占い師は呆けたように呟く。


「はい。世界各国から闇属性の魔力の保有者を受け入れている国です。

 そこには、その国から認められた人間しか足を踏み入れることができません。

 闇属性が当たり前に生活する その国の風土を荒らされることがないよう、

 信用できる人間しか入国を認められないのです。」


それは全く聞いたことのない話で、世間にはその事実は公表されていないんだろうと思われた。


「なぜ王族…姫すら知らない…?」

「情報漏洩を防ぐため、限られた人間にしか明かされていません。

 気質によっては、国王にすら伏せられることもあります。

 闇属性の保有者だけでなく、ご家族など関係者を守るためでもあります。」


お互いに不可侵を保てれば良いのだが、中には存在するだけで許せないと考える人もいる。完全に排除しなければ気が済まないとばかりに、一方的に攻撃をしかけるような人も、残念ながら存在するのだ。


不要な軋轢を生まないためにも、その国は、受け入れの事実を公表しない選択をし、世界各国もそれに協力することにした、ということなのだろう。

闇属性が発見された場合は、その国で保護する。

代わりに各国は、外敵の脅威に晒されることのないように秘匿する。


闇属性の魔力の持ち主も、生まれ暮らした国や家族から離れなければならない悲しみや苦しみはあるだろうけれど、大切な人を巻き込んでしまうことを思えば覚悟も決まるし、分かち合える仲間もいる。


思うところはあるものの、闇属性が堂々と平穏に暮らす道があるということは、救いでもあるようにルコルは感じた。


とても哀しいことだけれど、簡単には相いれないこともあるのだ。


きっと占い師も、ルコルと同じようなことを感じたのだろう。

話を聞いた占い師の表情は、憑き物が落ちたかのようにすっきりとして見えた。


「妹に…会えるか…?」

「罪を償った後にはなりますが、入国審査を打診してみましょうか?

 審査には闇魔法が使われますから深層心理まで暴かれますし、

 不合格となった場合、おそらく妹さんの存在ごと記憶を消されますが、

 その覚悟はありますか?」


占い師は迷うことなく、しっかりと頷く。


「わかった。必ず償う。だからそのときはどうか頼む。」

「承知しました。」


妹さんは今も元気に生きていて、罪を償えば会えるかもしれない。

それは、占い師にとって希望となったのだろう。

占い師は晴れ晴れとした顔でエフェにお礼を言うと、取り調べに応じるため、担当者とともに部屋を移っていった。


占い師のとった手段は最善だったとは言えないが、妹への思いは本物なのだと思う。きっと彼は、これからは真っ直ぐに進んで行けるはず。


だからルコルも、有耶無耶なままにするのではなく、ちゃんと前に進まなければいけない気がした。



「エフェさん、わたしは…その国へ行かなくていいんでしょうか?」


静かに、でもはっきりと、ルコルは言葉にした。


エフェは、ルコルが闇属性だとわかっていながら口にすることはなく、

ルコルもまた、触れることはなかった。

それは、言葉にしてしまえば、ここにいられないと思っていたから。


現に、占い師の妹は闇属性が暮らす国へと居を移している。

国を混乱に陥れる可能性を考えれば、ルコルはこの国にいるべきではないのではないか。


「ルコルさんには、この国にいて頂きたいと思っています。

 私は最初、あなたは聖女のようなものだと言いましたが、あれは詭弁です。

 あなたに託したい他の役目があり、でも受け入れては頂けないでしょうから、

 あんな無茶な理由であなたを縛りました。 

 …今から全てお話します。」

 

エフェは少し寂しそうな顔をしながら、でもルコルの目をきちんと見て、そう告げた。




どうでもいい裏話⑤

 ご都合主義丸出しなので本編では触れるのを控えましたが、

 魔法契約は実は闇属性の産物で、

 「魔法契約の効力を生む契約用紙を、闇属性の国が産出してる」

 という こじつけ設定を、一応用意だけしてありました。


 本編で上手く表現できていないような気がするので補足ですが、

 闇属性の国には闇属性以外の人も普通に住んでいます。

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