13. 占い師
ルコルは、エフェとノノの三人でお茶を飲みつつ姫のことを話しているとき、ふと疑問に思っていたことを口にしてみた。
「占い師って何を占うんですか?
占い師に心酔するって、わたしはちょっとピンとこないんですけど、
どういうカンジなんでしょうか…」
王子があれだけ警戒感を露わにしている以上、明確な違和感があるのだろうとは思うのだが、先日お会いした姫は、可憐な印象だけが残り、あとは全く何の違和感もないように思え、ルコルはどう向き合えばいいのか見当がつかなかった。
「はじめは天気だったそうですよ。」
エフェが王子から聞いたところによれば、姫はまだ未成年ということもあり、公務と言っても花を添える程度のものしか携わらせて貰えていないそうだ。
ぶっちゃけてしまえば居なくても全く差しさわりないため、悪天候などの際には、無理に行くこともないと、さくっと欠席にされるらしい。
姫なりに場に即した装いなど考えて準備していたのに、「天気が悪い」なんて理由であっさりドタキャンさせられても、姫にしてみればモヤっとしてしまう。
「天気がわかれば予め覚悟もできるから、ダメージも軽くなるのでは」と、そんなところから占い師との交流ははじまったのだそうだ。
占い師の天気予報はかなり当たったらしく、姫は占い師を贔屓するようになる。
次第に占い師は、「今日は南の方向が吉」だとか、「白いものを身に着けると良いことがありそう」だとか、ちょっとした幸運アドバイスも口にするようになり、それが地味に当たったりしたため、姫はすっかり『占い師の言うことは当たる』と信用しきってしまった模様だという。
占い師の天気予報は、当たることが多いとはいえ、もちろん外れることもある。
それはそうだ。占いとはそういうものだ。
一般的に、占いとは統計学だと聞く。
『こういう条件下では、こうなる可能性が高い』という確率のお話なので、『絶対』はない。占いである以上は外れることがあるのは当たり前で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という心持ちで聞くことが大事なのだ。
加えて、王族は、他人の意見を盲目的に信じてはいけない立場にある。
冷静に、慎重に、自分の目で判断することが求められる。
王子がそれを説いても尚、姫は占い師のアドバイスを盲目的に信じた。
故に、魅了を疑うに至ったのだそうだ。
確かにルコルにも、「これが妄信している理由だ」と聞かされても、納得できるものではないように感じられた。
だって、エフェだったら外さない。
天気とは大気の状態によるもの。風や大気中の水蒸気量などで決まってくるので、風と水の魔法のトップに君臨するエフェは、天気を読み違えることはないと自ら豪語している。何なら、大気中の水分調整をしたり、強風を起こして雲を押しのけたりすることで、短時間・局所的であれば天候操作すら行えるそうだ。
それと比べてしまえば、占い師の言葉はどうしたって参考情報の域を出ず、妄信するには及ばないと言わざるを得ない。
占い師の行ったアドバイスにしても、『良いことがあるはず』という目で見ているから、いつもは見落としてしまうような些細なことでも、当たったように感じたというだけのように感じられた。
だって、ちょっとした良いことは身の回りに溢れている。
エフェとノノと三人で家族みたいにお茶を飲むことだって、ルコルにしてみれば幸せなことなのだから。
「お姫様が、いつもは気づけない身の回りの小さな幸せに気づけたのは
すごく良いことだと思いますけど…
どこまでが良いことで、どこからは良くないのか、線引きが難しいですね…」
いま、ルコルはエフェをとても信頼しているけれども、その気持ちを誰かから否定されたら、やっぱり悲しい。
姫が占い師を信じる気持ちだって、否定されれば絶対に悲しいはず。
気持ちって、とてもとても難しいのだ。
ルコルがしんみりしそうになっていたとき、聖女フロアへの来訪者を知らせるベルが鳴った。
ルコルが応対に出てみると、王子からの使者がおり、「本日、例の占い師の訪問予定があるので立ち会って欲しい」との要請だった。
すぐさま三人で王子のところに駆けつけると、占い師は既に応接室に通されており、姫の入室を止めている状況とのことだった。
「本命は王子かもしれませんので、王子は入室をお控えください。
この場の対応は私がします。
ノノさんは…できればルコルさんと安全なところにいて欲しいですが…」
エフェは一人で対応するつもりのようだったが、ノノは首を横に振る。
「空気の澱みを見れば、何か企んでるのかは分かるよ。あたしも行く!」
「そう言うだろうと思ってました。無茶はしないでくださいね?」
「うん!」
この国唯一の聖女を、しかもまだ六歳の幼い女の子を、危険を伴う可能性のある場に連れだっていいものなのだろうか。
ルコルが躊躇している間にも、エフェとノノはお構いなしといった様子で、 さくさくと応接室に入って行ってしまう。
ルコルは慌てて二人の後を追うしかなかった。
どうでもいい裏話④
王子や姫には名前はつけていません。
作者、名づけが超絶不得意なことに加え、
名前が多くなると誰が誰だかわからなくなる傾向があり、
固有名詞がなくても何とかなる人には、名前はつけないことにしています。