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聖女と嘘は君のせい  作者: 真朱
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11. 何をもって聖女と成すか


ノノが、「ルコルが一緒にいてくれるなら王宮に行ってもいい」と述べたことにより、聖女は王宮預かりとなり、ルコルは『聖女のお世話係』となった。

ひっそりと『エセ聖女』の冠を返上することに成功したと言える。


聖女の保護者 兼 護衛はエフェが務めることになったため、王宮魔導士としての職務は『どうしてもエフェでなければ対応できないもの』のみに軽減され、基本的にずっと、ノノとルコルの側に付いていることになった。


聖女教育も、基本的にはエフェが務める。この国には他に聖女がいないため、聖属性特有の某かを教えられる人間はいない。『魔法』というカテゴリで括るなら王宮筆頭魔導士のエフェは適任と言える。


王宮関係者宿舎の最上階は、防犯上『聖女さまフロア』へと刷新され、ノノ、ルコル、エフェの三人だけが生活する場所になった。

まだ幼いノノが寂しい思いをしないようにと、ほとんどの時間を三人一緒に過ごしていて、何だか家族になったみたいだ。


「おねえさまの側は空気が澄んでいて清々しいわ~。さすが聖女ね~。」


ノノは伸びをしながら大きく息を吸う。

神殿ではとてもじゃないが深呼吸などできなかったそうだ。


「そうですよね?ノノさんもそう感じますよね?」

うんうんと頷くエフェに、「もちろん!」と元気に答えるノノ。

ルコルには違和感しかない。


「ノノちゃん、わたしには聖属性の魔力は一切ないから、

 聖女の可能性はゼロなんだけど…」


恐る恐る言葉にしてみたルコルに、ノノはきっぱりと言う。


「おねえさま、魔力の属性が何かなんてどうでもいいことだよ。

 大事なのは使う人のこころ。

 心が汚れてたら、良い力でも悪いことに使われたりするし、

 心が綺麗だったら、良くない力を使おうとは思わないでしょ?」

「!」


ルコルは目を見開いてノノを見つめた。

それは、闇属性だからこそ決して間違った使い方をしてはいけないと、ルコルがずっと心に誓ってきたことだった。


人を意のままに操ることもできてしまう魔法だからこそ、自分自身を律しなければならないと… ルコルは、どんなに辛い状況でも、命が危険に晒されようとも、自分のためには闇魔法を使わないと決めて、それを守って生きてきたのだ。


「聖職者だって、心が汚れてる人の周りの空気は澱んでるのに、

 おねえさまの周りの空気は誰よりも澄んでる。心が綺麗な証拠だよね。」


ノノには、なにか心の在り(よう)から発せられるものが見えているらしい。

ルコルの決意を、今日までの自戒を、手放しで認めて称えてくれている。

エフェも、穏やかに微笑みながらこくりと頷く。


今までの人生が報われたような気がして、ルコルの心が、あたたかなもので満たされていく。

闇属性に生まれてしまった不運を嘆いたり恨んだりせず、ひっそりとではあれど自暴自棄にならずに生きてきたからこそ、こんな尊い出会いも廻ってきたのだと思えて、ルコルは万感の思いだった。


そのとき、部屋にノックの音が響いた。

三人まとめて王子がお呼びだと言う。

ルコルは、ちょっと不安に思いつつも、人の多いところでは息苦しさを覚えるノノの方がもっと不安なはずだと気を引き締め直し、王宮へ向かった。



「妹が深夜に、一人ふらりと夜着のまま王宮から出ようとしたらしい。」


王子の言葉に、ルコルたち三人は耳を疑った。


王子の妹ということは、当然お姫様である。

王族が一人で出かけること自体がないのに、更に女性である姫が夜中に一人で出るなど有り得ない。しかも夜着で人前になんて出るわけがない。少し聞いただけでも異常事態だとわかる。


「もちろん、部屋の外に控えていた護衛がすぐに対処したので、

 結果としては、妹は王宮から一歩も出てはいないのだが、

 その護衛が言うには、まるで夢遊病のようだったそうだ。」

「夢遊病…」

「妹には医師の診察を受けさせたのだが、例の占い師への心酔っぷりは、

 やはりマインドコントロールに近い状態だと診断された。

 聖女どのの浄化の力は、こういったものには効果はないものだろうか?

 駄目でもともと、やるだけやってみては貰えないだろうか?」


ルコルは、『聖女には癒しと浄化の力がある』という知識しかなく、聖魔法が具体的にどういうことができるのかは、さっぱりわからない。

癒しの魔法は、傷が治っていく様子を目にすることができ効果がわかりやすいが、浄化は、どういったものに効果があるのかも含めて、何だかわかりにくいように感じていた。


ノノも何か思うところがあるようで、少し考えた風ではあったが、

「聖魔法で解決するかは分かりませんが、お姫さまには会ってみます。」

と、了承した。


「感謝する聖女どの。まだ王宮にも慣れないだろう中、無理を言ってすまない。」

 

引き受けて貰えたことにはほっとした様子の王子だが、まだ幼いノノに重責を負わせてしまうことに対しての申し訳なさも滲ませていた。

自国の王子が気遣いのできる人格者であることにルコルはじんとするが、同時に、思っていた以上に深刻な事態なのだということも伝わってきて、気持ちがざわつくのを感じた。


先日お茶に呼んでもらった時にも話していた、姫と占い師の関係。

闇魔法が使われた形跡はなさそうだが、だからこそ正解がわかりにくく、むしろややこしそうな気配が漂っている。


得体の知れないものと相対しなければならないような、言いようのない不安に押しつぶされないように、ルコルはぐっと足を踏みしめて顔を上げた。




どうでもいい裏話③

 ノノは、幼い女の子の名前と言ったら「ココ」しか考えつかなくて、

 ほとんど最後までこの名前で書き進めていたのですが、

 ルコルとココの名前が並んだときに同じ文字ばかりになるのが気になり、

 ルコルはもう変えたくなかったので、こうなりました。

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