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ドルイドの倫理

冬の朝の静かで清明な空

いいことなんてなんもないけれど、「木のエーテルの行為」が難しいだけで、生きる事が大得意(だいとくい)である、普通の日常はずっと過ごせる、星の娘の平凡な一日の頭の(とき)に、ステラ・ロサであるわたしは悩み事があった。


なんで「木を(かじ)ることに抵抗感(ていこうかん)を感じる?」


原理の話からする。わたしの「ドルイドの術」は(いにしえ)の、(また)の古の世界、「賢者の国」から得ている知識で、その基本の「エーテル操作」で、わたしは接触(せっしょく)できる「木の類のもの」の力の強弱、方向、成分を多少いいなりにできるようになった。この能力で、並みのドルイドの人みたいに、「薬草を粉にして洗練する」「畑の小麦の病気を無くす」「樹木に活気を与える」などの魔力行使(まりょくこうし)ができるし、これは「木」という性質を持つだけで、原理と言えば、魔術ギルドの「元素魔術(エレメント・マジック)」ともほぼ同じ仕組みだ。

そして、応用で、「狩りの獲物から喜ばしくない匂いを消す」という行為もできるけど、これは、触媒(しょくばい)や材料や自分の内側のエーテルで「匂いを打ち消す薬草の香り」を具現して、その「木」の性質を獲物に適応するという構造になっている。実はこれはドルイドのばあちゃんに聞いたことがあるのだ。ドルイドは基本的に力仕事(ちからしごと)が得意ではなくて、わたしの村で狩りの結果物を良い条件で貰って、その取引の中でわたしの面倒をみてくれたりしたので、「まあそんなお仕事をしてるのさ」という説明を聞いた。わたしは「木のエーテルの(さい)」など全然なかったので、知ったところでなんもできなかったけど。


そういう原理を利用すると、木を粉々にすることも、触媒や内側(うちがわ)のエーテルの形に効率低く変換することも、その余分のエーテルを杖の(たま)備蓄(びちく)しておいて、使う時に内側のエーテルの代わりに利用することもできると、原理的に問題がないということは説明ができたと思う。

もちろん、魔力適性(まりょくてきせい)がない平凡(オーディナリー)の人がこの物語を聞いてもすぐ手でエーテルの流れが触れたり、勢いが見えたりしないので、「なんかできそう」になると説明は十分なのだ。


そして、植物もそんなに守るべきものではない。可愛くて、汚れてなくて、まっすぐなものではない。(もちろん、けっこう素晴らしいものではある。)

木に根を張って生える、寄生(きせい)の性質を持つ木なんてあるし、キノコもほぼそうなんだ。植物の栄養の一部は、散っていた鹿やうさぎ、人の亡骸でもあるしな。

もともと植物という生物は人の子より遥かに長い時間を生きて、多くて、綺麗な見た目をしているけれど、その根本は良くも悪くも生命だ。生えて、吸って、大きくなって、精一杯この世界に残るために頑張っている最中(さいちゅう)連中(れんちゅう)だ。危なかったり、汚かったりもする。わたしは「古代魔術」の記憶と、森の里の娘との常識で、それを知ってる。

弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)そのものだ。特に植物にお肉は付けて無くて、狩りもしないけど。


でも、そういう厳しい生き方を知っているとしても、わたしの杖で似たような方法を使う事は、非常にやってはいけない行為だと思えるのだ。

木から強さを奪って、質量を削り、自分の「木のエーテル」の源にすることは、非道(ひどう)(おこな)いだと感じる。

おかしい。


ドルイドとして、自然と共に生きるものだから?確かに()(かな)ってるのだが、80%くらいは当たってるけど、ちょっと違う感じだ。

ドルイドも人間だ。()()を必要とするのは一般の人と同じで、普段はわたしみたいはモフモフも無くて無限の体も無いのだ。植物をじぶんの為に利用しないわけではない。丁寧ではあるけど、確実に頼る。

人として社会人なのだ。(きこり)が木材を取るのはぜんぜんいい。それを貰って、暖かさのために、料理のために燃やしても普通だ。他の人に依頼して、家を(つく)っても、箱を作っても、全然問題がない。

果実や葉っぱを取ることも、草を切って粉薬(こなぐすり)にすることも、枝を折ることも、その過程でもし森1つくらいを丸ごとに使っちゃったとしても

そういう光景を想像しても、

まあ、やりすぎかな、という印象で済む。「邪道」という感じはしないのに。


「齧る」のはダメなのだ。


「ーという、あれこれがありますが、これは「型物理性(アイディア・ヒストリア)」の(ことわり)で、なんの問題があるのですか?」


わたしはブイオ様に()えた。

自分の桜のドルイドとしての姿勢は、一人前になったとは言い難いだろうけど、必要な知識は十分すぎるほど持ってると思うのに、この違和感のもやもやが消えないから。


「おまえ、なんか錯覚(さっかく)してるな」


狼さまは初手(しょて)ディスから入った。


「確かにおまえは「座標(ざひょう)衛星(えいせい)」の使命をそれなりに頑張ろうと、まじめに(いど)んでいると見えるけど、根本的なところで「非凡の生き物」としての常識が一つも無い」


「それは仕方ないじゃあないですか。人間ですよ」


「そんな体でか。コアの状態でか。まあ、そんな話だったな。

うむ、わかった。確かに人の子に非凡(エキストラ・オーディナリー)の生命の定めを語るのは限界があるけど、いいか」


「はい」


「もともと、「齧る」のは、植物では無くて、虫のやり方なんだ」


適切に納得ができそうな答えを教えてくれた。

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