名札を付けたって本人とは限られない
「ちゃんと平凡の技術者の間の指揮はレグノさん含めてチーム長を通るからそこも心配しなくて大丈夫です」
「はい、わかりました」
ちょっと知り合いが見えたのか、メガネくんの教授も手を振りながら、私のところを見た。
「でも、平気なのが不思議ですね。今回、一緒に働いても『エーテルのことを見て聞くこと』ができない人も中々いるのですが、リハーサルでは確かにデュラが握ってるところも信頼して働いていた」
「そうですな」
「非凡使いではないだけで、エーテルを見る才がある人なら理解します。でも、見えないんじゃないですか、土と石を握って持ち上げてる色やエーテルが。それでも仲間が信じれるんですか。凄いですね」
「ふうん、確かにそれは深い話だ」
私はなるほど、とちょっと思った。具体的には0.003秒くらいを考えた。
以前もリソくんがヒステリーを発してるのを何回か聞きながら確かに感じたのが、今の平凡の社会も別に非凡のものが、非凡のことに詳しい個体が生きるに最適な、快適に受け入れるようなところではないということだった。白い子は、普通に危うい。そんな感じの。
まあ……わたくしがもともとここトスカーナ地方で生きることになったのもその以前、似たような厳しい出来事があってからだが(だから最近の「ワイン毒殺屋敷」の件が随分と不快で、この大魔術の設計にも最善を尽くして協力してるのだ)そう。平凡の人は、普通は非凡の出来事を信じない。ただそんな偶然の出来事であると、ぜんぜん特別ではないと思うしかないのだ。
「『名誉が残らない事』もそうです。このように大きいパレードも行われるのに、人の文献や話にあまり書かれてないのもちょっと寂しくなりませんか。僕たちは記録があります。非凡の文献と、魔術史と、教皇庁非凡科の認定。それが誇りと『まあ最上かな』と納得させるその源になる。でも、それは平凡の人はだいたいが見ることができなくて聞く事もできない。だからその次の都市、次の時代になるだけでかんたんに溶けてまるでそんなことは瞬間の鼓動に過ぎない瞼の瞬きだった、そんな虚無感が来るかもしれません。これらは非凡のことが見えるけど平凡のお仕事をやる人はどう思うのでしょうか、非凡の物事に関わって食うけど自分はエーテルのことを感じれない人はどう思うのでしょうか」
「まあ、私も『見えない』人の心はわかりませんから……」
「そうですね」
「……推測しかできませんが……今までの連絡先の知り合いの技術者や学者、お偉いさんたちを見ていた経験では、結局なにかに能がある人は、そこで自分の納得できるものを探す事になるということでした。特大サービスですね。普段はこういうことあまり喋らないですが」
土の堂のマギアたちが心的に穏やか過ぎて色々言っちゃうのだ。
「なら今回の会話でいっぱい学ばなくちゃだ」
「はは」
「納得ですね。マギアもそうです。面妖狩りに逢いたくない。だから入った魔術ギルドも辛い事がけっこうある。堂が強いるとやりたくないお仕事もいっぱいやらないといけない。場合によっては非凡の物事に巻き込まれて、跡形も残らなくさよならバイバイする。それでも、ここが最上だ」
「うんうん。そんな立場がヒトも、平凡の技術者さんたちもそれぞれあるのです。だから、それぞれの納得があるのです。できなくても、続いていると状況がそうさせるまであります。ともかく、人は仕事ができて、コミュニケーションができる人間を好んで、信じる。それはどこでも同じでしょうね」
「まあ……そうですね。マギアも個人のスフィアやエーテル操作の洗練と同じくらいに大事なのがギルド員として、職員としてのお仕事ができる人間か、ですから」
「できないと黒魔術師、直行ですもんな」
「はぁいそうです」
私は頷いた。確かに、学長のウリエル・モルテくん(彼はまだ10才だ。リソくんの推測年齢と同じだな)……の苗字もそうで彼の家系、モルテ系は死の言葉が原因なのか、他の理由があるのか、コツコツ土や水のエーテルを扱うことができるけどギルドから破門になった人も結構多い。そんなよくわからない家系だった。(私ももちろんお仕事の提携のいちばん偉い人を調査するのは基本だった)その人たちのように、優れたマギアとしての能力を持つとしても、それが妖怪や魑魅魍魎や怪異のように、その混ざりの人のように平凡の社会に合わす気がぜんぜんなくて、それが他にもわかるように言葉と行動に出てしまうと、一緒に居られない。離れるしかなくなるのだ。
技術者たちもそうだ。別にマギアになるまではエーテルのことが親しくない。しかも、一部は完全に才能がないくらいだ。でも、他の「信じれなくて、神経質的に反応する」平凡のヒトよりは、友好的でお仕事ができている人。マギアのことが怖くて嫌いよりは、不思議ちゃんの神秘的で素敵、もちょっとはある人。もしくは、他の、エーテルが見える平凡の技術者の仲間を信じるから、見えない動力によって浮いている岩をすぐ信じてハンマーを叩くことができるのだな。
「技術者も同じなんです。結局自分の身と心に付けた、経験してきたものがあって、それと同時にちゃんと仕事ができないといけないから。それができる人たちは、多分大丈夫なんです」
「うむ。『納得』できた。お言葉、ありがとうございました」
「ふふ」
そろそろ大門を出ることになった。あそこのわちゃわちゃ、馬車がいっぱい駐車してるのが見えた。
急にはじめて見る言葉作りやがって。「面妖狩り」初登場です。ただの魔女狩りと似たようなものです。理由は、地系/人間/平凡の型物理性から見て怖いものを排除する。仕組みは徹底的に身属性の粒影です。




