因果が残らないとおかしい
「本当にその通りだ。わたくしが接続している夢国は、ムーの最悪とやらを前提すると説明ができる霊のエーテルの現象だ。くらくらした塊だ。使い捨てのエーテルは霊属性のようなものになり、真名だけを覚えて曖昧に浮いていく。量が多くて『大量の生き物の死』でこれは説明ができるのだ。でも、そこから絶対結果のようなものが感じれていない。カルマがぜんぜんない。『ムーの最悪があったから出て来た質量なのに、ムーの最悪のことは残ってない』のだ」
「やはり古すぎてなくなったんです。自分の心を忘れて、名前がなくなった。75000年は長い時間だ。一部は残る事もあって、一部は消える事もある。そういうのはどうでしょうか」
わたしはちょっと食い気味で、それはただの偶然なんじゃないかとブイオさまに話してみた。
「それもまあ可能性はあるのだが……」
あるのかよ。
「でもきれいさっぱり消えるよりは、なにかの痕跡に残した方が普通だ。パンを完璧に食い切っても粒をほんの少しは残す事と同じだ。本当の本当に完璧に食い切ることもできるけど、そうしない限り粒が残ってしまう。
似たように、ものの発生と衰退はエーテルの影響をして、その影響をされたものがまたいっぱいの関係を結んだ事。その残りの一部は直接・間接的でまた子孫を残す。エーテルも、非凡の生き物も平凡の生き物も似たようなものだ。そういう構造が自然な『命の根本』なんだ。深紅の悪魔もこの世界からは夜空のものだが、基本的にはそう」
「まあ、次の代を作りたくなったら、いっぱいの胞子を作りますね。そういうのを仰るのですか」
それはわたしがこの世界で過去の同族「深紅の悪魔」をずっと狩りている理由でもある。人の非凡使いが対敵するには特徴がやっかいで、平凡のものは見えないけど深紅の悪魔からは平凡の物体を触る事ができる。そして、心の言葉を見て触って普通の物質の様に扱ってずっと生きることができる奴らが、個体数も増えれるのだ。結構の最悪だ。こういうのは、今はムーの「掟」がなくなってるからなんだな。
「あ、そう言えばその設定があったな」
「『設定』と言うのはやめてください?」
「物語性を言ったのだが」
「そうですかヒストリカル・アイデアと言ったのか」
「ムーの賢者の国には掟があって、その法律によって深紅の悪魔はみんな知性体の禁断症状で頭がいかれたと言ったじゃないか」
わたしは頷いた。
「はい、それは確実に覚えています。わたしには衝撃過ぎる絵図でわたしの素や性とはぜんぜん無縁なので『だらしない』と思ってた。そしてこの世界でブイオさまのスターダストを貰って復活した深紅の悪魔もだいたい同じ態度を見せたから、それを見てすぐ連想ができたと思うのです」
「その掟とやらはもうないんだな」
「それは同然です。せんせいがヒストリカル・アイデアで縛ったものだから。彼女の偉さが切れたと同時に溶けて、もしくは解けてしまう」
賢者の国を司るものとして、「そういう種族」だとしても、その平凡の知性体として生まれて生きる人たちの長として深紅の悪魔が普通に生きる事は認めることができない。だから木属性の賢者、わたしのせんせいは縛りをかけて『深紅の悪魔が知性体を食べることができない』だっけ。そういう処置をしてた。
「でもおまえには通じなかったと言うことだな」
「わたしは人の子に比べると『パンをなんで食べなきゃいけないのかなどを思う』ような、そんな深紅の悪魔だったからです。だから先生の掟から自由で、『まあこの世界で生きるには一番適切な方法か』と、せんせいに頼んで木属性のエーテルを学んだ。そして今もよく使っているということだ」
わたしはだいたいストレッチを終えたので、杖を持ち上げて素振りを始めた。これと、適切に深紅の悪魔の頭を狙う練習をするのだ。
「ふむ、たしかに焔が欠けている分、颯の適性がよかったからそれができたということだ」
「ウヌスが分けられた種族ですから。同じ深紅の悪魔だとしても色々いるのです。
そしてわたしはその『流されるまま飛ぶ』行動原理でこの世界まで来ることができた。でも、他の個体は『生きたい』の熱望で残った、生き延びたものが大半。だから『灰色の呪い』から復活する時のわたしはぜんぜん『まあ……考えれるから現状でいいかな』になって、自分の体を取り戻す事に別に熱くないと言うことです」
だから同じく灰色の呪いから深紅の悪魔として体と心のチカラを取り戻すはずなのに、わたしは多分復活しない。もしするとしても、一人二人くらいしかいないはずだ。
「まあ、わたくしは『星のワンちゃん』の召喚が成功したらもっと計画通りだったけれど、もともとその召喚に使う利用できるエーテルがなかったら全然ダメダメだった。その時、『灰色の呪いのまま意思を持つ』おまえの特徴が逆に、クララを動かしてわたくしが試す事ができるくらいの操作ができたから、それも確かに偉い事だ」
「それはぜんぜんブイオさまの立場なので誉め言葉みたいになりません」
「そう……」
でもわたしは言葉を正すだけ、別にブイオさまを責めない。
「わたしは深紅の悪魔としてはただクララの心と体を動いてるだけですから。まあ、わたしがクララですけど」
「ややこしい……」
「いつものことです。やー!!」
わたしは杖を振りながら掛け声を上げた。




