夢国の空白
いっぱい走っている時は走りに集中する。他に気が散るといつ転ぶか、脚を怪我するかわからないからだ。わたしはだから、いつも走ること自体に、体の動き方と自分の感覚に集中するんだ。喉と鼻にはいつもの通り草を契ったような味と匂いがするが、これもわたしの体が木のエーテルで大体できているから。
わたしは今日のノルマを走ったあと、またマントの上に座って全力疾走のあとの整理のストレッチをした。
「わたくしはおまえが『ムー大陸』でどんな経験をしているか知らない。ただ稀に復活してる■■■が兵士の国で深紅の悪魔という名前で呼ばれたことを知っていて、それがわたくしからニューが大体切られているのを知ってるくらいの狼の星だった」
「わたしもムーのことは本当に薄くて怖い思いが残ってるだけ。一番いい記憶が賢者のせんせいの笑顔くらいです」
「めっちゃ大事な記憶だな」
「それはそうだけど、もう『ムーの最悪』でなくなってると思います」
その人からわたしはこの世界のエーテルの方法、古代魔術を学ぶことになったから、そのあとの75000年が過ぎた今も、自分の木のエーテルを容易に扱うことができるようになった。そしてこの世界は……そうだな。真冬を除くとだいたい草が生えるのだ。エーテルが豊富なムーがなくなっても、ぜんぜん生きれる。
「まあ、人の子は長くて100年だから。もちろん非凡のもののようななにかの理由で長生きする場合も、そのおまえのわからない恐怖の原因と、そのあとの黄金のエーテルの爆発とやらで絶対生き残れないものだ」
「そうですね」
わたしたちはもう最近の2個くらいを含めて、ムーの滅亡に関した推測は25種類くらいの仮説を立たせたので、その話は別にやらなくてもよかった。
「その人になまえは貰ってなかったのか?」
「あ、そうです。それがですね、薄々く思うのが、わたしはあだ名を付けられたのです。人は名前に意味付与をするからですね。でも忘れた」
「付けた意味がないな」
「それが、わたしも深紅の悪魔として名前を別に持たない種族だから。本当に自分が名前を持つものだと認めるようになったのはエンブリオくんの影響なんです」
「わたくしが言いたいのは、そのあだ名がなんだったのかなどを知ることになると、わたくしたちがこの世界に生きるための何らかのヒントになるかも知れないと言うことだ。わたくしは基本的に『兵士の国』の夢国に接近できるだけで、ムーの覚えはぜんぜんないと思われる。もともと縁がないと繋がれないのだが、ムーの無くなってる人からのちょっとの記憶が霊属性のエーテルのカタチで新たな人に使われるとか……」
「生まれ変わり!?」
「そう。そういう痕跡もぜんぜんない。わたくしの兵士の国の情報が残っていてわたくしが使う事ができるのは、ふつうにそのように記憶の煙のようなものが人々の中に薄く残っているお蔭だ。今を人々を作っている種の一部になっているからだ。でも『ムー』に関してはなにもない。おまえの成れの果て、『灰色の呪い』に夢の形で保管されてるだけで、それ以外に別に『ムーに生きた人々の子孫』みたいな情報が全くないのだ」
「ふむ……バイブルの話がムーにはなかったということと一緒に、『もともとムー大陸はこの世界ではない』説が再びあがりますか?」
でもブイオさまは否定した。
「いや、この世界だ。この世界だけど、その『ムーに関する命の情報』が全くないのがおかしい」
「そうですか」
わたしはもちろんブイオさまの「夢国」という概念自体が曖昧過ぎて、間接的に推測するしかないけれど、でもふつうに人は死んだらお終いで、そのちょっとの亡霊が残る段階を過ぎてしまうとその名前も忘れて存在が崩れ落ちるようなものだと思われるので(何を隠そう、わたしがわたしになる直前のくららちゃんがそうだった)ブイオさまの話のように「国」のような単位で幽霊の話のようなものが残ってるという事自体がまず疑問だ。やはりただの「昔のものだから」溶けたのではないか?
「いや、わたくしが接せる情報には75000年の以前のように思われる人の子の情報もありはする。それがおまえと少年の話の『ムー』の存在を前提するとありえない普通過ぎるカタチであるだけで、人はその前にずっといた」
「なんですと」
「なら、夢国を作るような幽霊はあるけど、その中で生命力はぜんぜんない、ただの使い切ったエーテルが大量に作られたということになって、わたくしはその痕跡を辿る事ができるくらいだ」
「やはりなんの話かぜんぜんわかりませんが……つまり、『過去に人はいた。でも、ムーの人はいたと言う気がしない。でもでもムーはこの世界にいたと思われる』」
「そう」
「ならおかしくないですか?少年が覚えてる『灰色の呪い』の中のムーの最悪の記憶とやらは、その神話的事件が起きていっぱいの生き物が死んだ時に発生するなんらかの結果が残る筈だ。『絶対結果』とやらがある筈です。でも、その話は丸でその絶対結果すらも『夢』にあるだけ、この世界にはもともとなかったように消えているという話になります」
「そう、まとめるのが上手いな」
「それはどうもです」




