水の糸
「その人は最近もフィレンツェに来ている。まあ、頻繁に来るけど『祟り』のちょっと前に来てたのだ」
「ちょっと前ですか」
「魔術ギルドは非凡科と直接提携している機関だから。事務的な目的でギルド長に会ってた。そしてガブリエル学長はその間も贈り物としていちばん出来がいいワインをくれたと言うが」
「へえ」
わたしは自分が「ドルイド」を名乗れなくなった真犯人がそんなに気楽に社会を回っていることに不条理な気分を感じながら(実は別にそんなことはない。なぜなら、「ドルイドが連想できるな」は普通の考え方で、実際、毒草もわたしに平然としてた。ふつう、毒草の事件を見ると、ドルイドと木属性を思ってしまうのだ。そして、その人はただ人々の考え……平凡の型物理性のようなものに論理とカタチを作って付与しているだけだからだ。これは、わたしも賢者の国でそんな似たようなお仕事をしたことがあるからちょっと知っている)彼女の話を聞いた。確かに高い立場ではないとただ書類作業だけではなくても偉い立場の行事ではなくても自分で来るか……いや、おかしいぞ。
「わかったか?」
「その人より大魔術師のせんせいたちがはるかに偉くないですか?」
アストラさんはにやりと笑った。少年によると、アクアのマギアたちは大体みんなこんな悪者笑顔をするらしい。
「そう。その若者はただ教授一人と同じくらいの立場だ。でも、実権……というか、実際に律法を触って私たち魔術ギルドとの話をよくする人だから、ガブリエル・ブリナはその人の利用価値を高く買ったのだ」
「わたしはまだ会っても無いけど、たぶんガブリエル教授がそう判断すると正しいですね。だって、心の言葉を読むじゃあないですか」
「確かにそう。そして、その時にこの辺の聖堂に変な夜空のものの魔力反応があったということがあって、それを調査したとも聞く」
ギクッ!!!
わたしはマントと共にちょっと怯んだ。
「そうですか。わたしはフィレンツェは少年に出会った時、年末年始に初めて入ったので、ただの偶然だけど……わたしたちが出会ったのも確かに聖堂の広場でした」
「偶然だな。まあ、普通に聖堂前の広場がいちばん人気が高い」
「そうですね」
ここには言葉の妙があって、わたしは実は「フィレンツェのサンタマリアノヴェッラ聖堂の前で『ステラ・ロサ』として生まれた」ものだ。だから、ステラ・ロサさんとしてその時フィレンツェに入ったわけではない。そのあと出ていて、昨年の最後の夜にまた戻ったのだ。これはただの言葉遊びのようなものだけど……いったん、アストラさんの話がなにを言うのかがわからないから、わたしは一応知ったフリをすることにした。
「そうか。私が言うのは昨年の12月の……いつだ?初頭だったはずだ。そして、『夜空のもの』の調査が思う通りにはできなかったようで、普通にワインを持ってローマに戻ったということだ」
初頭……本当にわたしの痕跡か……?たぶんそうだ。
これはブイオさまの「認識妨害」という……隠れて分からない方法が本当に強いものだと改めて思いながら、わたしは最近の深紅の悪魔の討伐の時に、その人や非凡科の人がフィレンツェになかったことに安心した。非凡のものとしてバレるのは嫌だ!
「どんな事件だったのかな」
「そうね。聞くにはフィレンツェの大門からなにかぶにゅぶにゅした非凡の痕跡があったと聞く。だからそれを探りながらサンタマリアノヴェッラ聖堂まで行ったと言った」
痕跡……というのは「霊術師のくららちゃん」がいつの間にか放置した枝か……?
「それは奇怪な事件だ」
「そうだな。あきらかに水属性のエーテルが感じれたけど、その詳細は不明のままだった」
「うん???」
「なに」
「水属性ですか?なんか話の感覚では死霊術師や黒魔術師みたいな感覚がありました」
「確かにそうか。非凡科が把握している範囲内の公認・非公認非凡使いではなかったらしいよ。だから聖堂の知識の外の他国の非凡使いの可能性もあったと思うけど、詳細不明の魔法生物の痕跡のようなものが結論だ」
「へえ」
わたしは急に自分のことではなくなっていて、凄く安心した。だって、わたしは水属性ではなくて、霊術師のくららちゃんも水属性ではない。霊属性だ。なら、その非凡のものはなぜわたしたちと同じ聖堂まで来たのか?それも結構不気味なことだったけど、一応ギルドに嫌われないとそれが最善だ。
「その後は……まだ来てないと思うね。大魔術が終わったらきみも一回見る事になるかも」
「別に良いです」
わたしは別に立場としていい関係でもないし、その人の実力などは「ハンター制度」のことを少年から聞いた今年の初日から認めていたので、直接会う理由が無かった。
「そうか」
「夜空からのものである水だというのが奇妙ですね……普通に夜雨じゃないですか」
「はは、確かにそうだ。でも残っている部分には、何かのエーテルの糸みたいなものがあって、意図して魔力効果を残したのではないかを思うと『夜空のもの』であるのは確かで、行方不明の非凡使いのようだ」
くらら・ミリネはこのあとポルトガルまで行って、水糸海賊団の船長になって長い長い旅をはじめるのです。それを調査しに来たフォルトゥーナ・グノシーがカローンくんを拾った。大体そんな感じで1472年12月8日は構成されています。




